エガミの幻の食卓 その二
漁師の料理の鉄則は
「手早く、うまい」である。
どちらが欠けてもいけない。
さばの味噌煮という、
あのポピュラーな料理を
俺はずっと知らなかった。
さばは塩して干したものか、酢で〆たもの、
もしくはソースで炊いたものしか
食べたことがなかったからである。
ソース? そ、ソース!
ブルドックとかカゴメとか、のソース。
コロッケとトンカツの友というより裏の主役である、あのソース。
九州西端の、その島では「イカリソース」。
船のイカリのマークで一升瓶でも売っていた。
辛味の効いたシャビシャビの水っぽいソースである。
そのソースでさばを喰う。
漁師は漁で手一杯。悠長に調理するヒマは、ない。
網を上げる前に、水で戻した昆布をざく切りにして大きめの鍋で煮る。
しょうがの適量をかけらに切っていれる。
醤油と砂糖を少々と、一升瓶のイカリソースをじゃぶじゃぶと注ぐ。
その鍋を甲板のコンロにかけたままにして。
さばがあがったら、ぶつ切りにして海水で洗い、
その鍋に次々と放りこめば、よい。次々と。
味が染みるようにことことと中火〜弱火で。
下ごしらえ5分。さばの調理5分。後は勝手に出来上がる。
絶対に焦がしてはいけない。煮汁が少なくなったらOK。
わが町でさばの煮物といえばソース炊きである。
ごはんがすすんじゃって、すすんじゃって。
通常より2杯は多くなる。
でも、もう10年食べてない。
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