リレーコラムについて

エガミの幻の食卓 その五

江上隆夫

じつは島を出るまで
すべての魚肉製品は自家製しか
食べたことがなかった。

特に練り物。
大小いろんな味のかまぼこ。その他の揚げ物。
あるいは厚焼きとか、鳴門巻きとか・・。

好物はアジのみで作ったかまぼこ。
地元言葉なら「かんぼこ」

アジなどの地魚が親戚筋から大量にやってくることがある。
大量というと、まあトロ箱いっぱい。たぶん40匹とか、50匹とか。
その時はうちの女衆が総出でその魚たちと格闘する。
祖母、母、叔母二人に子供ら。ある日突然てんてこ舞い。

新鮮なうちは刺し身。といっても翌日まで。
刺し身以外は二つのコースに分かれる。

第一のコースは干物。
きつめの塩をされて庭の洗濯物の横で日光浴をする羽目になる。

第二のコースが練り物系。
特にアジは「かんぼこ」である。

三枚におろし、皮をはぎ、細かい切り身にして
すり鉢でうんうん言いながら擂る。
子供らは祖母らがする擂り鉢の押さえ役。

卵の白身や調味料をいれて、また、擂る、擂る。
粘りが出てプリプリとしてきたら、小さい板に木べらで
盛りつけていく。あの、かまぼこ型に。
すり身は寝かせた時間により硬さが変わるものらしい。
最後に食紅を筆でぬって、三段重ねのせいろで一斉に蒸す。

肌の色が落ち着いて少しグレーがかかり、
食紅からどぎつさが抜けてくると蒸し上がり。

アツアツよりも冷えてきたところが美味い。
板からはがしそこなったところが美味い。
ときどき小骨が入ってるけどね。

この「かんぼこ」ほか魚肉練り物製品、
自家製しか食べたことがないってことが
とてつもない贅沢なのだと気づいたのは
島を出て17、8年も経ったあとだった。

板わさで一杯やりだした頃かな。

も、ほんとアホやね。

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