ニューギニアロケ・チン道中日誌1
昨今珍しくなったと言われる仲人でもある村田さんからバトンを受けました。こんにちは、松木圭三です。このコラムはコピーに関心があり広告を目指す人たちがよく訪れると聞き実はとてもうれしく思いました(なぜなら僕の身近な若者たちの多くは広告にちっとも興味を持ってくれていないからです)。そんな人たちに向けて広告をもっともっと好きになって欲しいなという思いで何か書こうと決めました(逆効果にならなきゃいいけど)。そこで今年1年間僕が最も記憶に残ったある仕事のドキュメントを綴ります。その仕事は関西でしかオンエアーされなかったTVCMゆえ、おそらくご存じじゃないと思いますので、まずはその内容をちょっと説明しておきます。商品は洗面台や流し台の下についている排水管(S字型をした例のアレです)。その排水管を南の島の少数民族がコテカ(ペニスケースとも呼ばれるの例のアレです)の代わりに実際にアソコに装着して闘ったり踊ったりする姿をただただ追いかけるだけのCMです。ただしその映像は英国BBC放送のドキュメンタリー番組のようで(そんなにカッコよくないか・・・)、最後に「アナタモツケテミマセンカ?匂いを防ぐ排水管マルトラップ。」というコピーで締めくくる知的好奇心をくすぐる(どこが?)CMです。
では今日はまず企画をしたコピーライターのドキュメントから。
2003年11月某日・企画(コピーライターの回顧)
深夜、プロデューサーからコピーライターのもとに電話がかかってきた。
「マルトラップのTVCMを企画してください」
「マルトラップって、一体何ですか?」
「ほら、洗面台や流し台の下についている、ぐにゃっと曲がった排水管ですわ」
「はい、はい。しかしなんでぐにゃっと曲がってるんですか」
「イヤなニオイが逆入せえへんように水を溜めるために曲がってまんねん。そんなことも知りませんでしたんか。ビシッとキレた案、頼んまっせ!」
エラそうに知ったかぶりをするプロデューサーも実はぐにゃっと曲がってる理由を初めて知ったのは数時間前のオリエンテーションの席であった。
家の中の暗くて狭い場所で多大な役割を担っているにもかかわらず、人々にはその存在さえも気づかれることなく健気にも日本の潔癖を守っているマルトラップ。何とかこの製品を表舞台に引っぱり出し脚光を浴びさせたいとコピーライターは考えた。折しもテレビをつけると痛ましい戦争や閉塞感の漂う政治・経済のニュースが連日報道されていた。この息苦しく窮屈でいたたまれない世相を撃ち破るような表現はないものか。できればユーモラスなアイデアでマルトラップを世の中に知らしめたいものだ・・・(と考えていたら、イカン、睡魔がおそってきた)。アクビがこみあげてきて伸びをしたその瞬間、手が背後の本棚にぶち当たり、埃といっしょに大量の本がバサバサとひっくり返って落ちてきた。「この忙しい時に、ったく・・・」。しかし足下に捲れあがった本の中の1枚のジャーナリスティックな写真にコピーライターの目が釘付けになった。「ん?」。
研ぎすまされた褐色の肉体。儀式なのか黒光りする化粧を施し、頭には極楽鳥のような鮮やかな羽を差している。そして、アソコには・・・コテカ・・・。
もしかして、コテカの代わりにマルトラップをつけるなんて、どうだろう。
表現のトーン&マナーもコントや宴会芸のようなオフザケではなく、むしろ大マジメにそれこそジャーナリストの目線で撮る。切り口はこうだ。「世界のどこかに、ニオイを防ぐためにマルトラップのコテカをつけている部族がいる」。
考えただけでもおもしろいCMになるとその時コピーライターは確信した。
でも、彼らはどこにいるンだろう。はたして協力してくれるンだろうか?
コピーライターはそのまま机にうつぶせて眠ってしまった。南の島の部族の夢をみながら・・・。(つづく)
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