ニューギニアロケ・チン道中日誌5
おはようございます。
二日酔いですが、
昨日のつづき、
最終回です。
2004年1月末日・本番ロケ/後編(プロデューサーの回顧)
撮影クルーのなかで唯一の女性AEが、本物のコテカを付けた部族たちの間で心から楽しそうに無邪気にはしゃいでいる。彼女には悪いがそろそろダニ族の人たちにマルトラップのコテカを装着してもらい撮影を始めないといけない。長老からは3日くらい撮影がかかっても全然モンダイないよと言われているがこういうロケはイキオイが肝心だということを長年の経験で身に沁みている。しかもこの時期は雨季にもかかわらず、今日は晴れそうだ。しかし今回のロケはツイている。振り返るとこのシゴト自体がとてもツイていた。企画は面白いのだが、ハードルがいっぱいあった。今、部族の人たちがふざけながら楽しそうにつけているマルトラップのコテカにしろ、本当に付けてもらえるのかどうか実際のところ不安だった。コテカには宗教的なことは一切なくあくまでもアクセサリーのような装飾文化であることは事前に聞いていたものの立場上本当のところ心配だった。それが今、目の前では部族の中でもいちばんひょうきんなキャラクターに違いないオトコがなんということか商品である神聖なマルトラップコテカの先にタバコのパッケージを突っ込み仲間に見せておどけているではないか。よーし、このシゴトは必ずうまくいく。ダニ族の中でバカ話をしてアブラを売っているコピーライターとカメラマンに早くキャメラを回すように急かさないと・・・。
その日の撮影メニューは盛り沢山だった。戦闘シーンに始まって、お祝の祭りシーン、食事のシーン、労働のシーンなどなどムービーもさることながらスチールも撮らなくてはいけない(アートディレクターの副田さんにいい写真を撮ってくるように厳しく言われている)。そういえば、この企画はドキュメンタリータッチということで出発前からいろんな面で心配したが、出演者については全くモンダイない。それどころか彼らはキャメラを意識することなく、ヘンなキンチョーや中ダルミもなく、もちろん不平不満を漏らすこともなく、つぎつぎと撮影プランをこなしてくれた。どこかの国のタレントに爪の垢でも煎じて飲ましてやりたい。その後、長老の長男とその子分ふたりを連れて裏の山頂での感動的な夕景カットを撮り終え再び村落に戻ると、先ほどの感動以上の感動を経験することになる。今回は製品のカットにもたっぷり時間を費やして納得いくまでやろうと決めていた。しかし美術スタッフを連れてくることができなかったのでなんとか我々だけで現場で対応しなくてはいけない。その日撮影の合間をみつけては製品のシズルカット用のセットをこさえていたのだが、大工シゴトが中心のとても難しい作業に我々はいきづまっており村の片隅にほったらかした状態だった。ところが、ところがである。われわれが下山するとそのセットがいつのまにかできているではないか。しかも、パーフェクトに!!ずっと不器用な我々の作業を見ていたに違いない。その出来映えに思わず歓声をあげると、さりげなく、「こんなん作ってみましたけど・・・」と言った。静かに、控えめに、そう言った。人間の威厳さと謙虚さを合わせ持ったダニ族たち。振り返ると彼らは我々撮影クルーの一員でもあった。頼りになる仲間だった。今回のCMはあなたたち抜きでは成立しなかった。心の中で「ワ、ワ、ワ、ワ、ワ、ワ、ワ、ワ」と手を合わせた。
すべての撮影を終えた。いよいよこの村を去る日がやってきた。早朝、空港に行くと目を疑った。長老のヤリさんが見送りに来てくれていた。数少ない定期便に乗る人たちでごったがえす空港の待合室でも彼はいつものようにコテカしか身につけていなかった。誇り高き私たちの仲間と強く抱き合った。耳もとでヤリさんが何度も何度もつぶやいた「フレンド、フレンド、フレンド」。その言葉が今でも耳の奥でこだましている。
(おしまい)
当初、このコラムはこんな時代にもかかわらず広告を目指す人たちに少しでも広告のダイナミズムや面白さを伝えたいという真摯な思いで書き始めたのですが、目的は達成できたのか・・・、よくわかりません。
でも、広告の仕事をしていると、いい仲間との出会いがきっとあります。それだけはホント、断言できます。
さて、来週からはTCCの同期である武田斉紀さんの登場です。
どうぞよろしくお願いします。
そして、皆様、ご期待ください。
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