リレーコラムについて

深夜のコンビニで、ドキドキした

大澤範之

1. 相手が少人数で拳銃を持っていなければ身近にあるモノを投げつけ、
  徹底的に戦う。
2. 目をかっ開いて、「キエ〜ッ!!」と奇声を連発して相手を威嚇し、
  相手がひるんだすきにダッシュで逃げる。
3. よろこんで金を渡す。

高校時代にイメージトレーニングのスキルを身につけた僕は、バスケ以外
にも応用していた。その一つが、コンビニの深夜バイトで強盗に入られた
ときの対応だった。当時は、コンビニ強盗が全国的に頻発していて、地元
でも何店か被害にあっていた。その頃からコンビニの深夜バイトは2名以上
いるのが普通になっていたと思うが、僕が働いていたお店は、深夜は1人。
面接で「1人でやるんですか」と聞いたものの、帰ってきたのは、「大丈夫。
何かあったら素直にお金出しちゃっていいからさ。それですぐ俺を呼んで。
たいていの相手ならぶっ飛ばしちゃうから」という答えだった。

オーナーの話によると、オーナーは元々キックボクサー。コンビニの前で
たまっていたヤンキー(懐かしい)8人を片っ端から全員ブッ倒したという
エピソードを、自慢気に披露してくれた。その店の上はオーナーの自宅に
なっており、何かあればすぐ駆けつけるというわけだ。テレビの衝撃映像
などで強盗が店に入るなり店員に発砲するシーンを見ていた僕にとっては
なんの説得力もなかったが、結局ほかにいいバイト先もなく、まぁ、強盗
なんて滅多に来ない!と無理矢理自分に言い聞かせ、その店で働くことに
したのだった。

ある日、コンビニの前で風貌からすぐヤクザだとわかる男が数人、口論を
していた。これがドアが閉まった店内からでも聞こえるくらいの大きな声
だった。僕はというと、静かにしてください、と言える勇気は残念ながら
持ち合わせてはおらず、チラリと横目で見て目が合いそうになるとサッと
目をそらしたりを繰り返していた。もし、この人たちが店に入ってきて、
いきなり「金出せ」と言われたら・・・、間違いなく「3」である。

そして、これはヤバイかもと思ってオーナーに電話した。すると寝ぼけた
様子のオーナーは、「hello?」と、とんちんかんなことを言っている。
慌てて事情を説明して電話を切った。しかし、5分経っても10分経っても、
オーナーは一向に降りてこない。つぎの瞬間、クルマの走り去る音がして
外を見ると、さっきの男どもはいなくなっていた。と、それから数十秒後、
オーナーが降りてきた。「are you OK?」と聞いてきた。僕も一応「yes」と
答えたが、あきらかに男どもが立ち去ったことを確認して降りてきたのに
違いなかった。

ところで、オーナーはいつも英語で話しかけてくるが、100%日本人である。
理由は面接の時に僕が留学した話題になり、「実は俺も今、英語を勉強中
なんだよね。よし、俺と話すときは英語しか使わないことにしよう。約束」、
と、一方的に決められてしまったのである。それからオーナーと会う時は
常に英語で話しかけられた。他の店員がいる前でも、お客さんがいようが
関係ない。ある時なんか、僕がレジでお客様と対応しているときにお店に
入ってきていきなり、「I’m fine thank you!」と一言。聞いてないのに。
メチャクチャなのである。

「ブォンブォンブォブォブォン、ブォンブォブォンブォブォン」

遠くからあの重低音が聞こえてきた瞬間、何かイヤ〜な予感はしていた。
音が近づいてくるにつれて、その数が1台や2台ではないことがわかった。
蛇行する無数のライト。闇を切り裂く爆音。「頼む!過ぎ去ってくれ!」、
と、全身の気を集中させて祈ったものの、無情にも10台程の改造バイクが
コンビニの前で止まり、人影が店に向かってきた。

開いたドアから見えてきたのは、頭のてっぺんまで届くと思われるほどの
深く鋭いソリコミ、いわゆる「鬼ゾリ」や、歯ナシに眉ナシに、氣志團も
顔負けのパンチリーゼントなど多彩な顔ぶれ。いよいよご対面だ。一応、
店員として「いらっしゃいませ」と言ってみたものの、彼らは店に入って
来るなりこちらを睨みつけ、「カァーーーーーーッ、ペッ!」と、レジに
向かってツバを飛ばしてきたのだった。こういった類の侮辱を受けた場合、
イメージトレーニングでは「1」を選択する予定だったが、現実の中では
思いっきり「3」だった。何もされなくても、入ってきた瞬間から「3」の
選択肢以外はなかった。そして彼らはお菓子コーナーの駄菓子をその場で
食べだし、勝手にジュースも飲みはじめていた。彼らの特攻服には、地元
ではイチバン有名で、よく傷害事件を起こしていた暴走族の名。そのとき
はじめて僕は脂汗というものを経験した。

彼らは少し離れたところでこっちを睨んで何か話している。いよいよ、か。
その状態ではオーナーに電話することさえできず、僕は1000%観念した。
そして、リーダー格っぽいサングラスをかけた「鬼ゾリ」が、ツカツカと
こっちに歩いてきた。僕の手は、いつでも来い!とばかりにレジを開ける
準備万端。カネは渡すから素直に帰ってくれ・・・・。同じ髪型にしろと
言われるならする!3回まわってワンをしてほしいならそれもいいだろう!
しかし、ナイフとか痛いのだけはやめてくれと、本気で念じていた。

・・・

・・・

・・・

「あれ?やっぱそうだ。オーサワのアニキでしょ?」

「ほぇ?」。サングラスを取った「鬼ゾリ」が発した予想外の言葉に僕は、
言葉にならない言葉を発していた。

「オレだよ!覚えてる?」。よ〜く見るとそいつは弟の親友だった。昔は
よく一緒に遊んだ。おでこより上が完全に変わり果ててわからなかったが、
間違いなくアイツだった。「散らかしてわりぃ〜。カネは払うからさ」。
体中の力が抜けるなんて大ゲサだと思っていたが、アレは本当に本当だ。

辺りがうっすらと明るくなりはじめ、バイトの時間がそろそろ終わる頃、
オーナーが階上から降りてきた。

「good morning!」

彼は、何ごともなかったかのように、満面の笑みでそう言った。

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パラドックス・クリエイティブでは、毎週、「クリエイティブ・ラボ」という
社内勉強会みたいなものをやっています。広告に限らず自分が見つけたモノで
各自がこれは「クリエイティブ!」だと思うモノをみんなで共有したり、何か
トライアルで面白そうな企画を発信してみたりしています。

そんな中、「TRAVEL CAMERA」というのをやっています。これは、カメラに何か
テーマを与えて旅をさせるというもの。例えば、「あなたのまわりのソックリ
さん」というテーマであれば、まず、メンバーの身近で有名人に似ている人の
写真を1枚撮り、その人にカメラを渡します。そしたら今度はカメラを渡された
人が、また身近で有名人に似ている人を選んで撮影し、カメラを渡す。そんな
感じでどんどんカメラを回します。最後にカメラが無事に旅から戻ってきたら、
映っている写真をWEB上に掲載しようと思っています。まずは半分お遊び感覚で
はじめてみました。現在、「あなたのまわりのソックリさん」の他、まわりで
一番サルに似ている人に渡していく「ガッツに届くか!」、友だちの中で一番
遠くに住んでいる友だちに渡していく「遠くへ行きたい」が、旅立っています。
もし、皆さんのもとに回ってきたら、ぜひご協力ください。

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