絶倫
たしかに田中真輝は
「えー、来週は、マイビッグブラザー、田中泰延さんです」
と、わたしと兄弟であることを表明したのだった。
わたしは一瞬、
あらゆる兄弟と呼ばれるものの可能性について思いを巡らせた。
念のため田中真輝の配偶者(えみちゃん)に問い合わせ、
なにかわたしとの間に重大な過失はなかったかと尋ねてみたが
たとえニッポン放送とフジテレビの株式を全部譲渡されてもお前とだけはそれはない、
一度鏡を見てみろ、
という非常に明快な回答が寄せられた。
わたしの配偶者からもわたしに対して
全く同文の回答が寄せられる確率が高く、
問い合わせを行うのは慎重に延期している。
こうなると残るは血縁関係だけである。
そもそもおなじ「田中」姓であるということは、
どのような真実を内包しているのか。
「田中」や「佐藤」「鈴木」などの姓をもつ人口は
きわだって多い。
ここから導きだされる仮説は、以下のようなものである。
「田中」や「佐藤」という姓の人類は
絶倫なのではないだろうか。
反対に「武者小路」「徳大寺」「伊集院」
などの珍しい姓をもつホモサピエンスは繁殖力が弱く、
その生殖活動にはトキのように
保護と介助を必要としているのではないだろうか。
統計学の見地から検証するために
東京コピーライターズクラブの名簿を精査した。
これをTCCの勢力地図ならぬ
「精力地図」として分析したい。
最大の精力を誇っているのは
やはり「佐藤」である。12個体。
しかし、「田中」勢も負けてはいない。
同じく12個体である。
意外なことに、「鈴木」型DNAは
ここでは8個体と押され気味である。
近年、日本の国勢調査でも鈴木は佐藤に抜かれたらしい。
深刻な自信喪失が「鈴木」に起きつつあるのではないだろうか。
では当会、東京コピーライターズクラブの会長はどうか。
「秋山」
会長だけに、かなりの勢力を誇っていそうだ。
しかしこのDNAタイプはあと一個体しか発見されなかった。
統計とは厳密なものだ。
会長一派といえども淡白であるとの分析結果は避けられない。
しかし、ここまで分析を進めたところ
わたし自身が絶倫であるという調査結果に
周囲から猛烈な疑義の表明があった。
あるものは社団法人日本広告審査機構に
過大な表現および虚偽の記載として苦情を申し立てるとまでいう。
確かに、わたしにかんしては見栄を張ってしまったきらいがある。
絶倫を名乗るには情けない現実が文字通り横たわるのみである。
では、「絶倫」より一歩後退して「不倫」という概念は適用できないか。
しかし「不倫」にはなんとも良くないイメージがある。
そこでわたしは
「無倫」
という呼称を使用することにした。
田中泰延35歳、コピーライター、無倫。
なんとなくエコロジーな響きさえあって気に入っているのだが、
あなた、どう思いますか。
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