砂と青の旅 <ボールペン篇>
昨日からのつづき。
翌日。
気が遠くなるほど巨大な塩湖を横断し、
さらにサハラへ近づく。
蜃気楼の影。
蜃気楼か本物かわからない影。
そのさらに奥へと塩湖は続く。
デスバレーが箱庭に思えてしまうほどのスケール。
ドゥーズという名の町。
地図を開くと、ここから南に文字はない。
つまり、地名も、道もない。
だた砂があるだけ。
4駆モードに入れて、わずかに砂丘へ乗り入れてみる。
いくら立派な4駆に乗っていても、
タイヤの下から伝わる感触は、
いつも六本木だの、麻布だのを走っているドライバーをあざ笑うかのよう。
港から海へ出る小型船のように、
観光客を乗せたラクダたちが一列になってゆっくり進んでゆく。
そう、ここは海なのだ。
船乗りでなければ、大海原に出てゆくべきじゃない。
舗装路へ引き返す。
これ以上南に下れないので、東へ向かう。
マトマタ、という町。
名物は岩山を横や縦にくりぬいて作った地中住居。
その中のひとつ「地中ホテル」は、
スターウォーズ第1作目のバーのシーンで使われたロケ場所。
当時の美術(ロケセット!)が一部、
まんま残されていたりする。
岩の上からR2D2ならぬ、
小さな子供が声をかけてくる。
幼児語なので、アラビア語かフランス語か不明。
仕方ないので英語で「何?」と話しかけると、
手で何かを書くしぐさ。
ここでガイドブックの片隅に書かれていた一行を思い出す。
「チュニジアの子供たちは観光客からボールペンをもらうのがハヤリ・・・うんぬん」
たまにこういうことがあるから「地球の歩き方」は馬鹿にできない。
さっそくバッグからHoliday Innのロゴ入り緑と白のボールペンを手渡す。
ノック式でも、3色ボールペンでもなかったためか、
彼はいまひとつ喜んではくれなかったが、
僕は長崎佐世保のHoliday Innのボールペンが、
チュニジアの砂漠の民の子に渡ったことに妙な満足感を覚える。
砂や岩を見続けると無性に海が見たくなる。
さらに東へ。
ガベスという町で再び地中海と対面。
やはり青い。
海辺のプロムナード。
小学生くらいの女の子2人が、
恥ずかしそうに笑いながらまとわりついてくる。
言葉さえできれば、なんでそんなに興味があるのか訊けるのだが。
オリーブ畑に囲まれた幹線道路を北上。
交通量が増える。
トロトロ走るプジョーのピックアップを何台も、ガンガン抜く。とにかく抜く。
窓は全開。強烈なオリーブの匂い。時にコヤシの臭い。
でも最高に気持ちいい。
SFAX(スファックス)という、
なんだか松下か東芝の商品名のような港町へ到着。
町一番の、でも少々ボロめのホテルにチェックイン。
ロビーは暗く、70年代ソ連、共産圏風。なかなかいい感じ。
それもそのはず、チュニジアは僕が生まれた頃、
社会主義をやっていたらしい。
地中海沿いの港町に来ると、
なぜかいつもfurutti di mare(海の幸)ピッツァが食いたくなる。
地元の人たちで混んでいる小さなピッツァリアを発見。
ナポリで食うそれにはもちろん及ばないが、満足。
さて、チュニスの空港まで、残る行程は300キロ程度。
今日のペースならひとっ走り。
明日は、チュニジア最後の夜。
どうするか。
3つの選択肢を考える。
1、チュニスに戻って、街中で一泊。
2、再びカルタゴへ向かい、その先の海岸沿いに泊まる。
3、ハマメット、という名の一大リゾート地に寄ってみる。
ホテルの部屋でネットを叩くと、
ハマメットにはかなりの数の5つ星、4つ星ホテルが並ぶ。
その中には、会員になっているため、いつもいろいろ便宜をはかってくれる
「リーディング・ホテルズ・オブ・ザ・ワールド」加盟の「なんとかタラソ」もある。
残念ながらその「なんとかタラソ」は満室だったが、
ズラッと並ぶハイクラスホテルたち。
その中にヒルトンも、ハイアットも、ソフィテルも、メリディアンもないのがまた面白い。
みんなアラブ資本か?
「3がいいじゃないか」
明日へつづく。
I fly, therefore I am.
岩井俊介
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