リレーコラムについて

高校のときの話。

山上陽介

高校2年のとき、ひと夏だけパチンコ店でアルバイトしたことがあります。

高校生から見ると、時給がけっこうよかったんです、パチンコ店って。
当時、マクドナルドの時給が750円くらい。
パチンコ店は、たしか1200円くらい。
ただ、18歳以上じゃないと雇ってくれないんです。
で、いつもつるんでた上岡くんと相談して、18歳の浪人生だと身分を偽って、
僕らは地元横浜のパチンコ店で一緒に働くことにしました。
もちろん、夏休みの間だけのつもりで。

でも、スキンヘッドの店長は翌年まで働いてもらうつもりで雇ったみたいでした。
「お前ら半年は辞めんなよ。しばらくバイト採んないから」
そう言ってましたから。

バスケ部の練習があったので、週に3日程度の勤務でしたが、
常連客の顔も覚え(午前中に来店するお客さんの3分の1は、友達のお母さんでした)、
「ジャンジャンバリバリ出ております!出しております!」なんていう
マイクパフォーマンスも様になってきた、8月の終わり。
上岡くんと僕の間には、「そろそろ辞めんべ」というムードが漂いはじめました。

まず、開店前の朝礼のあと、僕が店長に言いました。
「あの、受験勉強に集中したいんで・・・。無理言ってすみません」
「え、そーなの?・・・しょーがねーな、ま、がんばんなよ」
意外とあっさり承諾してくれたので、僕はほっとしました。

翌日の朝礼のあと、上岡くんが店長に言いました。
「受験勉強に集中したいんで・・・。すみません」
「なんだよ、困るよ。働きながら勉強すりゃいいだろ」
「いや、でも、その、・・・田舎に帰ることにしたんで」
「田舎?あれ、お前この辺の出身じゃないの?」
「違います。実家は遠くなんです」
「え、どこ?どこ?」
「・・・えーと、・・・北海道、です」
「北海道?北海道のどこ?」
「・・・さ、札幌です」
「ホントに?俺も札幌だよー!」
「へっ?」
「おお、そーだったのかー!札幌のどこよ?」
「・・・」

上岡くんは、生まれも育ちも横浜、横浜以外の街で暮らしたことのない人です。
絶句する上岡くんとハイテンションな店長は、そのまま事務所の奥に消えていきました。
さすがに少し心配になって、しばらく事務所の前でぼんやりしていると、
なぜか2人とも大笑いしながら戻ってきました。
僕にとっては、これが最初で最後でした。あんなに機嫌のいい店長を見るのは。
北海道に何の所縁もない上岡くんですが、その場はどうにか切り抜けたみたいで、
無事辞めさせてもらえることになったようでした。

その後、上岡くんに、どうやって切り抜けたのかを尋ねても、
いつも「適当に切り抜けた」としか応えません。

あの夏、札幌出身のスキンヘッドの店長がいたパチンコ店の敷地には、
今、こじんまりとしたラブホテルが建っています。

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