リレーコラムについて

こんなコピーライター、ちょっといない。 その2

都築徹

こんなコピーライター、ちょっといない。 その2

キリマンジャロ登頂の余韻が、まだ体に残っていた。
この旅のきっかけになったヘミングウェイの短編集は、
表3に自分の名前を漢字で書いて、ウフルピークに置いてきた。

赤道直下のタンザニア。再び自転車の旅がはじまった。
忘れられないあの村に着いたのは、夕方だった。
他の村でもそうしてきたように、
食堂で生温いコーラを飲んで、宿に戻る。
その日の宿代は150円ほど。
ガラスのない、網が張ってあるだけの窓。
硬いベッド。空調はない。

突然、目が覚めた。
起きようと、右に体をひねったとたん、激しく嘔吐。
市場で買ったトマトがあたったな。そう確信した。
腹の調子も悪い。穴があいただけのトイレをまたぐ。
紙の代わりなのか、空き缶に濁った水が入れて置いてあった。

朝。立っているのもやっとという日本男児を、
昨日知り合った青年が助けてくれた。
唯一英語を話す友が、まぶしく見えた。
だが、病院へ一緒に行く時間はないという。
そこで、彼の知人がついて来てくれることになった。
スワヒリ語しか話さない男と、
日本語しか話せない男が、バスに乗り込む。
男は、サトウキビをかじりながら、
スワヒリ語で1から10までの数え方を教えてくれた。
「ごめん。気分が悪すぎるよ」
男は笑って、開きっぱなしの後部ドアから、
サトウキビのかすを投げ捨てた。

一時間ほどして、バスが止まった。
灼熱の太陽の下を、まだ歩くのだという。
窓ガラスさえないレーニン記念病院が、天国に見えた。

ドクターが言った。
「マレイリア」
「?」
「マレーリア!」
あ、マラリアか。予防薬は飲んでいたのだが。
黒い肌にピンクの制服が似合う小太りのナースが、
付き添いの男とスワヒリ語で談笑しながら、
注射器を鍋に放り込む。
使い捨てじゃないんだ…。
21才のわたしは、少し覚悟を決めた。

ハマダラ蚊に刺されて、マラリアになった男。
こんなコピーライター、ちょっといない。

東京コピーライターズクラブ(TCC)
大阪コピーライターズクラブ(OCC)
福岡コピーライターズクラブ(FCC)
コピーライターズクラブ名古屋(CCN)
あきらかにヘンですが、生意気でハングリーな若者たちが、
名古屋の広告を、すっかり元気にしてくれました。
よろしかったら、交流しませんか。
マラリア持ちのコピーライターも、在籍していますし。

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