こんなコピーライター、ちょっといない。 その3
都築徹
マラリアと宣告されてから、体力も気力も失いつつあった。
でも、ここは、タンザニアの、誰も知らない村。
旅を続けなければ、帰れない。
TOYOTA製のピックアップトラックが、砂煙を立てて止まった。
インド人のふたり組が、自転車を荷台に乗せてくれる。
サバンナを飛ばす、赤いTOYOTA。
「あの自転車を、売ってくれ」
「それだけは、だめだ」
ずっと英語で話し続けるインド人が、真顔でこう言った。
「Don’t trust anyone.」
誰も信用しないで、ひとり旅なんてできないよ。
白人は、黒人と自分たちの間にインド人を入れて、
アフリカを支配した。
英語ができて、商才があって、暑さに強いからだ。
白人は、去った。
インド人たちは残り、黒人たちを使って商売を続けている。
でも、富めるインド人は、貧しい黒人を信頼していない…。
悲しい旅になってきた。
ダルエスサラームに着いた。
シーク教徒のいる寺院に、
マラリアの日本人を泊めてくれるよう頼んでくれるふたり。
だが、ターバンを巻いた大男は、首を縦に振ってくれない。
異教徒はだめだという。
無宗教だというと、みんな不思議そうな顔をするので、
こちらでは仏教徒だと言うことにしていたのだ。
半日、インド人の知り合いの宿を探し歩き、
郊外の背の高いビルに、安い部屋をみつけてくれた。
ありがとう。「Don’t trast anyone.」って言ってたくせに。
金のない日本人を、信用してくれたのか。
派手なクラクションを残して、TOYOTAは走り去った。
歩いて、街に出る。
子どもたちが、自分の前を遮って、妙な拳法の構えをする。
アメリカでつくられた、
インチキな忍者映画やカンフー映画がはやっているらしい。
ごめん。こっちは柔道マスターなんだ、とかわす。
チナ!チナ!と何度も声をかけられる。
Chinaじゃないよ、Japanだよ。
すぐに、訂正する気もなくなった。
食堂で知り合ったその男は、とても静かだった。
習った英語を、丁寧に話してくれる。こちらはつたない片言英語。
会話は、何度も行き詰まった。
男は静かに言った。
「中学で3年、高校で3年、大学で2年も習ったっていうけれど、
どうしておまえは英語が話せないんだ」
返す言葉がなかった。
男には連れの若い男がいた。
あまり話に絡まないそいつが、突然言った。
「クマモトから来たのか?」
熊本?名古屋もしらないのに、なんで熊本なんだ…。
顔を見合わせて、ニヤニヤするふたり。
「クマは女性の○○で、モトは熱いってことさ」
笑い声が、路地に響いた。
タンザニア人に、下ネタを教えてもらった男。
こんなコピーライター、ちょっといない。
7月16日(土)に、コピーライターズクラブ名古屋主催の
CCN賞授賞パーティーがあった。
名古屋を出て、他の街で活躍する仲間たちも、
受賞者としてやってきた。
「名古屋に早く帰りたい」「名古屋に自分を逆輸入したい」
名古屋出身の彼らの言葉は、無責任ではないだけに、
素直に嬉しかった。
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