名古屋の恋 2
クリスマスは、風俗店にとっても、かき入れ時。
その年もやはり、お店は寂しい男性客で超満員でした。
もちろん、鈴子さんも早朝から働き詰め。
プレゼントを持った僕は、もう2時間も待たされていました。
「ちょっとお客さん、常連さんだろ? こっちでお待ちよ。」
店長の岩本サンでした。
鈴子さんの常連だった僕に気をつかってか、それとも、風俗嬢への叶わぬ恋を不憫に思ったのか、
とにかく僕を、普段は風俗嬢の女の子が待ち合いにつかう個室へと案内してくれました。
「もうじき鈴子ちゃんあがるから、それまでこの部屋でゆっくりしてき。」
店長のやさしさに甘え、僕は、そこで待たせてもらうことにしました。
その時です。
耳をすますと、向かいの部屋から、かすかに鈴の音がきこえてくるではありませんか。
チリ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ン、チリ〜〜〜〜ン チリ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ン、チリ〜〜〜〜〜ン
チリ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ン、チリ〜〜〜〜ン チリ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ン、チリ〜〜〜〜〜ン
「鈴子さん、がんばってるな…」
リズミカルな鈴の音に最初は感心し、聞き入っていた僕でしたが、
その気持ちは、長くは続きませんでした。
チリ〜〜〜〜〜〜〜〜ン、チリ〜〜〜ン チリ〜〜〜〜〜〜〜〜ン、チリ〜〜〜ン
チリ〜〜〜〜〜〜〜〜ン、チリ〜〜〜ン チリ〜〜〜〜〜〜〜〜ン、チリ〜〜〜ン
チリ〜〜〜〜〜〜〜〜ン、チリ〜〜〜ン チリ〜〜〜〜〜〜〜〜ン、チリ〜〜〜ン
チリ〜〜〜〜〜〜〜〜ン、チリ〜〜〜ン チリ〜〜〜〜〜〜〜〜ン、チリ〜〜〜ン
「今…まさに今! 僕の鈴子さんは、他の男と…!」
込み上げるジェラシーを必死でおさえつけようと、
僕は、待合室の本棚にあったボロボロの横山光輝『三国志』に手をのばしたのです。
チリ〜〜〜〜〜〜〜〜ン、チリ〜〜〜ン チリ〜〜〜〜〜〜〜〜ン、チリ〜〜〜ン…
(つづく)