リレーコラムについて

いと、をかし - 貸切り -

岡村雅子

はじめまして。岡村雅子です。
このコラム、過去に2度逃げていたのですが「今年は何からも逃げない!」と念頭に男らしい?決意をしたので受けることにしました。また今、イキオイづいている平石さんからの依頼でもあることですしね。指が動くままに、書いてみることにします。

をかし ●普通の状態と異なるものに対して強くひかれるさま。せつないこと。

やっていることに飽きるとふらりと泳ぎに行く癖がある。先週私が足を踏み入れたとき、そのプールには人影ひとつなく、ただ静かに水をたたえていた。年末を痛感するのはこんな時かもしれない。
「この時間帯でめずらしいですよ。もう貸切りです。ぞんぶんに泳いでくださいね」
ここの青年はいつもさわやかである。お言葉に甘えて自由に泳がせていただく。同じレーンに誰もいない、いや、同じプールに誰もいない。そんな状況で泳ぐなんて、なんと素敵なことだろう。頭のなかは、どんどん透明になっていく。10分ほどたった頃だろうか。あるひとつの出来事が、私の脳裏に、氷が溶けたようによみがえってきた。
8月、セミがはじけるように鳴いている日、彼と私はとあるプールにいた。まだ日焼けなんかも気にしない二十歳前。まだつきあってもいない、友人関係の彼とここに来たのは、5度断られてもメゲない根性と「都内に静かでいいプールがあるんだ」という誘い言葉に降参したからだ。そう、私は何よりも泳ぐのが好きだった。太陽と東京タワーを仰ぎ見ながら、彼はまぶしそうに目を細めてマイタイをすすっている。人っ子ひとりいない、緑の木々が書割のようにしらじらしく映る夏の日の午後。人はこんな状況から恋におちるのだろうか。
「ちょっと飛び込もうかな」
「お酒飲んでると、あぶないよ」
「大丈夫」
ザブーン。勢いよく逆V字型に跳ねて、彼は飛び込んだ。それを横目で見ながら、私はただデッキチェアでごろごろしていた。しばらくたって、彼が一向に上に上がってこないことに気づいた。
「ヤバイよ」
慌ててプールをのぞきこむと、彼は下の方に沈んでいる。飛び込み台の下は、水深3Mと表示には書いてある。
「すみませーん、誰かきてください」まわりには誰ひとりいない。迷っている暇はない「えい!」私は水着の肩ヒモを直して、プールに飛び込んだ。

                   ―――――おっと、呼び出しをくらいました。 以下次号!

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