よっしーお見合い大作戦? 〜 最終回 〜
「お見合いの返事なんですけどね」
僕が姿勢を正したせいか、
彼女も手に持っていたアイスラテをテーブルに置き、
背筋をピンと伸ばした。
ストローがグラスの淵に沿ってクルリと回った。
「僕たちは今日はじめて会ったわけだけど、
この一回でYESかNOかを決めなきゃならないのかなぁ」
「私、次に付き合う人とは結婚を考えていて・・・・・・・」
「もちろん、僕もそうですよ」
そもそもこのお見合いは、
両親の顔を立てるために
はるばる大阪まで来たわけだけど、
そんなのは彼女にしてみればカンケイない。
そしてただ一度お話しただけで、
彼女のことがすべてわかるような才能は、
残念ながら授かっていない。
もし一目惚れなら?
才能より本能を優先しているかもしれないけれど。
「僕とキスできますか?」
「そ、それは・・・・・・」
「でしょ。
今って、
そのくらいの信頼しかないし、
そのくらいの想いしかないと思うんです。
その状態でYESとかNOとか、
僕は答えを出したくないんです」
お見合いは、
白黒をハッキリさせるのが礼儀かもしれないけれど、
僕にはそれができなかった。
生理的に苦手とか、
あまりにも価値観があわないとか、
明確な問題がない限り、
断る勇気なんて僕にはない。
じゃあ親の顔を立てるなんて、
自分だけに都合のいい大義名分を立てて、
お見合いなんてしなければいいのだ。
親が心配してくれる気持ちと浪花節さんの配慮を、
ありがたく素直に受け取りながらも、
きちんと丁寧にお断りすればよかったのだ。
「でね、考えたんですけど」
「はい」
「連絡先を交換して、
電話やメールで、
もっとお互いを知り合いませんか?
やりとりを重ねて、
お互いが会いたくなったら、
僕が大阪に来ればいい。
あなたが東京に来ればいい」
「名古屋で会ったっていいですもんね」
「そうですね」
敢えて答えを出さない。
この経緯を僕から浪花節さんに伝えるということで、
彼女は納得してくれた。
「そろそろ行きましょうか」
「そうですね」
彼女の住む町まで続く地下鉄の改札まで送り、
僕たちはそれぞれの生活に戻るためにまた歩き出した。
最寄りの駅に着き、ぷらりぷらりとウチまで歩いた。
途中、子供の頃より小さく見える公園のベンチに腰をおろし、
しばらくのあいだ空をボーっと眺めた。
なぁ、よっしー、
キミにとって結婚って何だね?
結婚相手って何だね?
結婚するためにお付き合いをするの?
違うような気がするなぁ。
好きだから付き合いたいと自然に思って、
その気持ちを相手に伝えて、
そして受け入れてもらって、
そこからはじめてふたりは始まるんじゃないかな?
同じ時間を共有して、
あ、この人とずっと一緒にいたいなぁ、
そう相手に強く想って想われて、
結婚したいと思うんじゃないかな?
結婚って、付き合う前に考えるんじゃなくて、
後から想うものだよ。
想わせてもらえるもんだよ。
なぁ、よっしー、
結婚したいと想えるヒトともう出会っているかもしれないよ。
出会っていたかもしれないよ。
だけどキミはバカだからさ、
過去にしちゃったり、異性として見なかったり、
変にカッコつけちゃって自分をわかってもらえなかったりしてさ。
それが縁というものかもしれないけれど、
もう少し出会いを大切にしたほうがいいかもしれないね。
全部が全部、キミの好みで、
パーフェクトなヒトなんていない。
もしいたとしても、
そのヒトは今のキミを選ばないね。
なぁ、よっしー、
大切なことに気づくまで、
ずっとキミを見守っててあげるよ。
なぁ、よっしー、
しかしキミは、ほんとに世話がやけるね。
子供の頃からよく知っている大阪の空が、
そう僕に言ってくれたような気がした。
完
一週間ありがとうございました。
次の走者は、タグボートの、岡 康道さんです。
快くバトンを受け継いでくれました。
岡さん、よろしくお願いします。
電通 芳 谷 兼 昌
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