リレーコラムについて

1158

坪井卓

この癖がいつ身についたのか覚えていないが、
4桁の数字を見ると、つい10にしてみたくなる。
4つの数字と四則演算(+-×÷)だけを使って、解を10にするというアレである。
たとえば、4569ならば

4×6-(5+9)=10 もしくは、(6×9-4)÷5=10

という具合。
この遊びを中高6年間、自転車通学をしながらやった。
すれ違うクルマのナンバーを10にするのである。
正確に言うと「その4桁は10にできるか」ということを咄嗟に判断して、アルバイトのごとく次から次へとクルマを仕分けていた。

「1319」 できる!
「1005」 できん!
「8965」 できる!
「2278」 …できる!

しかし、そんなある日、運命の一台に出会った。
薄汚れた白のハイエースだった。

「3173」 できん!…ん? ちょっとまてよ…

長年やってきて培われた直感が、できないというハンコを拒んだ。
僕は学校までの道のり、他のクルマは無視してこの問題に取り組むことにした。

…3×3……7-1……7×3……7÷3……7÷3?

「ぶ、分数か…!!」
ブレイクスルーの瞬間である。
(やってみようというお暇な方のためにあえて答えは書きません)
学校に着いた僕は、急いでノートを開き、改めて0001から9999まで検証してみることにした。その日の授業は全部つぶした。
そうすると、今まで無理だと思っていた数字が嬉々として輝き始め、
4桁の数字がいくつかの群に分けられることに気づいた。
さらには、数学的ヒエラルキー、一番難しい4桁が浮かびあがってきた。

「1158」

晴れやかな気持ちだった。
世界の秘密をひとつ解き明かしたのだ。
教室の窓から見える瀬戸内海が夕陽をあびて輝いていた。

そして、この話には後日談がある。

高校2年の秋、僕はひき逃げにあった。
文化祭の打ち上げを終えて、ほろ酔い気分で自転車をこいでいた僕に
交差点を右折してきた一台の軽が突っ込んできたのだ。
「あ。」と思ったときには体は宙に浮いていた。
ボンネットの上に背中から乗り上げ、地面へすべりおちる瞬間、
目の端にクルマのナンバーが映った。

「5193」 …できる!

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NO
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