リレーコラムについて

本日、広尾駅前で。

小西利行

今日は、世の中的にはお休みだが、僕的には仕事だったので、
西麻布にいた。申し遅れたが、僕の会社は西麻布にある。

夕方、仕事も終わり、せっかくだから広尾まで散歩して帰ろうとしていると、
まだ夕焼けがまぶしい時間にも関わらず、なんと、男女がキスをしていた。

両方が海外の方、もしくは片方が海外の方、さらに百歩譲って、
美形の方たちであてば僕も、ふふふ、美しい光景だ、と見過ごせたが、
彼らの形相はかなり日本古来のもので、しかも、少し人間離れしていたので、
見過ごす訳にはいかなかった。

買い物帰りの無防備なお父さんに、子供が「何をしてるの?」と聞いたらどうするのだ?
という気持ちで、思わず、凝視して、これこれ君たち、やめたまえ、と言ってしまった。

と言いたいところだが、そうもできないので、ちょっと困ったあけぐ。
少し無謀な行動に出てみた。仕事終わりで軽くビールを飲んでいたこともあり、
心のアクセルを踏んだ僕は、驚くことに、近くにまで歩いていって、
軽くぶつかったのだ。すると、彼らは、驚いたようにこちらを見た。
そして、案の定「なんだよ!」という想定内の言葉を僕に言い放つではないか!

と、なるのも怖いので、おそるおそる近づいていって、
5mぐらい遠くからそっと見てみた。臆病な僕にもそのぐらいはできるので、
今度は本当にやってしまった。

人は、人が側に立つと何かの感覚で気づく生き物らしく、
別に何ということもしていないのに、まず女性がこちらをちらりと見た。
すると、それに気づいた彼の方が、彼女に続いてこちらを見て、ばつが悪そうに、
顔を背けた。とはいえ、キスをやめるのでもない、しぶといのである。
こうなると僕もがんばってしまう訳で、さらに、少し近くに寄ってみた。

すると近くから、すいません、困るんですけど、の声。
おっと、僕以外にも彼ら、類人猿似の方々のキスを止める勇気のある方の登場だ、
と思っていたら、その声は僕に向けられていた。
わらわらと数人の人たちがやってきて、こちらを見ている?
この人々の雰囲気には見覚えがある。これは、よく撮影現場にいる人々だ。
と、思ったと時は既に遅かった、僕は、こともあろうに、撮影を邪魔していた。

いつもは、撮影を邪魔する人を見て、大人なんだからもう少し遠くで見てくれよ、
と思っていたものだが、僕が、その大人じゃない人になろうとは夢にも思わなかった。

と、いう話はちょっと無茶すぎるかな?いや、広尾なら撮影も多いし、
あり得るなあ、と思いつつ、広尾駅の前を通過した。

僕は、妄想が好きである。

と書くと、間違いなく、危ない方向をイメージするが、
そうでもない。僕の場合は、非常に健全な妄想癖である。

広告という仕事は、妄想が大切だと思う。
この商品が世の中にどう受け入れられるのか?
このキャッチコピーは人の中でどう伝わるのか?
そしてどうやって人がこの商品に手を伸ばすのか?
そう考えることは未来であって、現実ではない。だから、想像する。

アイデアという言葉もあるが、アイデアは形になるまでは単なる妄想だ。
だから、とにかく何かをを生み出すこととは、まず妄想することだと思う。
一番いいアイデアを生む人は、一番多く妄想した人だし、
一番面白いことを妄想することが、一番面白い広告を生むことになるのだと思う。

だから、僕にとっては、広告企画の会議はさながら、妄想合戦、
いやいや、妄想大会、さらに言うと、妄想祭りだ。

妄想好きにはたまらない。いやはや、いい業界に入ったものだ。
もしこれを読んでいる人が妄想好きだったとしたら、
あなたは広告に向いているかもしれない。

なんてことを西麻布の会社で書いている。
まだ、仕事は終わってない。

帰りに、広尾の駅前でも通って帰ろうかな?

NO
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