リレーコラムについて

職訓

三井明子

最近は、就職しても途中で会社を変える人や仕事を変える人が
増えていると聞きます。
それでも、自分のまわりを見回すと、
スマートに志望の職場や志望の仕事につき、スマートに続けている人が多いように感じます。
わたしは、職を変え、職場を変え、挫折と失敗を繰り返してきました。

それは、キミが物事を深く考えないせいだ、とある人が言いました。
それは、キミが物事を深く考えすぎるせいだ、と別のある人が言いました。
本人としては、どちらでもよかったのです。

とにかく
オザケンとミスチルとオリジナルラブが爽やかにながれていた夏、
わたしは、わたしなりに考えていました。
教員を辞め、やっとのことでコピーライターとして採用してもらえたプロダクションを
わずか2年で辞めてしまった自分が、
この先コピーライターを続けるか、それとも辞めてしまうかを。

そのころ、久しぶりに会った美大時代の友人から薦められた「職業訓練校」。
通称「職訓」。
ある特定の職業に必要な教育を無料で受けられるうえに、
通っている間は失業保険が給付され続けるという、かなりおトクな教育機関です。
失業率が高まった数年前からは、何十倍、何百倍という狭き門となったと聞きますが、
当時はせいぜい10倍くらいの倍率でした。
職安(ハローワーク)で、くわしく調べて、
彫金職人やジュエリー職人を育成する、「金属造形」というクラスを、さっそく受験。
なんとか合格し、半年間通うことになりました。

一応美大出身なのだし、金属関係の職人に向いているかも…。
そうだ、やっぱりわたしは、モノをつくることが向いているんだ!
そんなふうに考えると、ふさいでいた毎日に一筋の明るい光が射すように感じられました。
コピーライターを辞める辞めない、という大問題は、もはやどこかに行ってしまいました。

毎日8時15分から16時30分まで。
工場で働く人のような、グレー(に微妙なグリーンが混ざったような色)の作業着と
作業帽を着用しての「訓練」。
そうです。「職訓」というからには、授業ではなく「訓練」なのです。
鉄板の裁断や溶接、グラインダーでの金属加工、指環の型づくり、シルバーの研磨…
一日の「訓練」を終えると、カラダはもちろん、精神もへとへと…。
それでも休まず通って、ガス溶接、アーク溶接、研削砥石(グラインダー)の
3つの資格を半年で習得しました。
しかし、あんなに全力で挑んでいたのに、訓練中の課題でつくったモノといえば、
歪んだ指環、いびつな銅食器など、図面とかけ離れたモノばかり…
わたしのつくったモノを手に、よく、指導教官は深いため息をついていました。
訓練期間中に給付された失業保険は、ほとんど飲み代に消えて行きました。
そして、半年通った結論。

たぶん、わたしには向いてない…

わたしという人間は、やはり、物事を深く考えないようです。

NO
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