祖父の弟は、いいました。
佐々木望
父方の祖父は、よく昔の話をしました。
生まれ育った熊本のことや、
戦時中のことが多かった記憶があります。
僕が中学生のときに、祖父はこんな話をしてくれました。
祖父には弟がいました。
祖父曰く「わしより男前で、学校の成績もよかった。」
年もやや離れていたのでライバル心もなく、
自慢の弟、という感じの話しかたをしていました。
そんな祖父の弟は、17歳の時に結核を患ってしまいました。
当時、結核がかなり残念な病なのは言うまでもなく、
やはり彼にも劇的な回復、などという奇跡はおこらず、
その半年後ぐらいに亡くなってしまいました。
亡くなるすこし前、病院にたずねてきた祖父に、
弟は紙切れに書かれた句を渡したんだそうです。
「何ひとつ果たし得ずして逝く吾は 冥土の土産に何をもつらむ」。
それを見たとき、祖父はもう励ますわけにもいかず、
言葉が出てこなかったといっていました。
わしは、なにもいえんかったんじゃけど、弟は笑いよった。
そういって唾を飲みこんだ祖父の、のど仏がごろりと動いていました。
僕は、そののど仏がふたたび動くまで、
しばらくじっと見ていたことを覚えています。
そういえば、小さいころ祖父の家に行くといつも、よう来たね、
といいながら、祖母がレディボーデンを出してくれました。
つい先日、6月3日は、祖父の1周忌でした。
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