31歳の実話。(つづき)
昨日書いた、僕の出生の秘密。
あの話には続きがあります。
とはいっても、僕の兄も実は薬局が閉まっていて
生まれた、とかいった話ではありません。
6年前の6月末。
僕のケータイに父から電話がありました。
「今、近くに(兄と)いるから三人でお昼でも食べないか。」
確かそんな電話だったと思います。
当時、広尾の会社で働いていた僕は
突然の父の電話に驚きつつもビルの下まで降りていきました。
父と兄は、ビルの一階、
白雪姫と七人の小人のビニール人形がディスプレイされた広場に
心ここにあらずといった感じで立っていました。
広場を取り巻く楽しげな世界にこぼれる負の空気。
僕は家族に何かがあったことを直感しました。
そのまま僕たち三人は何も話さず
あるレストランに入りました。
そこで語られたのは、母の死が近い、ということでした。
僕は信じられないという想いを持ちながら、
死を回避するために採れそうな様々な方法論を
父に提示しました。
思いつくままに、可能性があると思われる方法はすべて。
しかし、ただ父は首を横に振るだけでした。
僕の万策が尽きた頃、
ようやく食事が運ばれてきました。
決して若くない三人の男が
若いOLさんたちにまじって泣きながら
料理を喉の奥へと詰め込んでいる光景は
とても不思議だったと思います。
結局、混乱する父と兄に僕が言ったことは
残された母の時間をどれだけ豊かにしてあげられるか
ということでした。
精神的に弱いところがあった母のために
本当の病状を知らせないことや
家族の時間を増やすこと、看護士さんの目の届かない
ところのケアなど。
子離れしない母を一番理解しているであろう
僕の言葉に、父も兄も反対はしませんでした。
それからの三ヶ月、
僕は会社に無理をいって仕事を減らしてもらい
当時同棲していた彼女の許しも得て
ほとんどの時間を家族と過ごしました。
笑いは万病の薬。
そんな想いで母が喜びそうな昔話をたくさん用意していました。
その中の一つに、僕が母の身体に宿った、あの箱根の夜の話が
ありました。
大笑いする母と父。
笑い事じゃないよ、と僕。
笑い疲れたのか、睡眠剤が効いたのか、
母は間もなくして眠りに落ちました、
その母の顔を見ながら
父はしみじみと箱根の夜の話の真実を僕に告げました。
なぜ、そこまで必死に避妊しなければならなかったのかを。
母は生まれながらに虚弱体質で
兄を生んだ時に、子供はこれが最初で最後と言われたらしいのです。
次の子供を生むのは命に関わる、と。
それでも母は、兄の「弟がほしい」という切なる願いに
答えるために次男の僕を生むことを決意したようでした。
開いているかどうかも分からない薬局に
父を走らせたのも母の作戦だったのかもしれない。
母の身を案じる父の不安を払拭するために。
父はそんなことを言っていました。
確かに、誰も傷つけないで
兄の願いを叶えるために
母なら考えそうなことです。
事実、母は妊娠していることがわかったとき
産婦人科の先生から命の保証はできない、と強く言われた
そうです。
母がいつまでも子離れしなかった、いえ、できなかった理由。
それは、死ぬ想いをして生んだ子供だったからこそだったの
です。
母の死の直前に知った、自分という命の秘密。
そして、そのことを僕に告げるどころか
面白い昔話にして笑い飛ばしてしまう母の強さ、気遣い。
受け止めきれないほどの愛の存在を僕はそこに
感じました。
そして、その愛は、僕を癒し、日々の看護の疲れを
取り去っていきました。
母を看護しながら、僕は、母によって
助けられていたのです。
あれから6年。
「そっちは、どう?ばあちゃんと元気でやってる?
こっちは、いつも忙しくて大変だよ」
弱音を吐く僕を、遺影の中で笑う母は
「あんたの大変さなんて、私が、あんたを産んだときに
比べたら大したことないわよ。
人間、死ぬ思いになれば何でもできるんだから。」
そんな風に諭しているような気がします。
産まれてから、母が死ぬまで。
そして、母の死後もなお。
僕は母から教えられ、多くのものを受け取っている。
「いっつも、ありがとな。」
母から元気をもらうと
僕は、そう言って遺影の角を撫でる。
母が天国に旅立つときに、母にそうしたように。
この時期、僕がしんみりしたコピーを書いていたら
そっと飲みに誘って何も聞かずに僕をなでてあげてください。
できれば、リア・ディゾン似の、そこのあなた。(笑)
・・・こんなダウナーなことを書くから、
きっとマイミクが少ないんでしょうね。
そんな私とマイミクになってくれる心優しい方は、
ぜひgoodlluck2007200020002000@yahoo.co.jpまで。
(あ、ラーメンズが好きな人もぜひ!)
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