リレーコラムについて

住む。

富田安則

僕は中学から実家を離れ、青春時代を寮生活に捧げました。
寮棟の「α(アルファ)」「β(ベータ)」というネーミングから
分かるように、まるで軍隊のような学校でした。

たとえば、「体育祭」という言い方をして先生から殴られた輩がいます。
「体育祭とは何事だ!祭じゃないんだ!『体育大会』だろ!」
言葉をあつかう厳しさを、僕は罵声の隣で学んでいました。

その「体育大会」では、喜び組も驚くほど統率された行進があります。
腕の振りを、肩より上に。足の上げを、臍より上に。
行進の練習では、常にビンタが炸裂していました。

そして体育大会当日には、理事長なる人が壇上に立っており、
そのお偉い人に向かって、「かしらー、右!!」と敬礼します。
これを軍隊と呼ばずして、なんと言うのでしょうか。それでも
この寮生活を通して、逞しさだけは鍛錬されていきます。

「生きるチカラ」。

某保険会社のような柔らかい意味合いは、まったく含まれていません。
本当に、戦場でも生きていくための精神力と自立心を培うことができます。
実際に、防衛大学や防衛庁に多くの仲間が進んでいます。

こうして寮を卒業すると、ようやく念願だった一人暮らしが始まります。
暗闇の生活を6年も続けていたので、大学で怠けるのも無理はありません。
某最高学府の留年率では、うちの高校がいつもトップを占めていました。

僕も負けじと留年を重ねていたのですが、とある日、留年する
友人たちとの共通項を見出してしまったのです。

「家に、帰らない」

あれほどまでに憧れた、自由気ままな一人暮らし。つまり初めて
自分だけの空間で生活できる喜びを手にしたというのに、みんな家に
帰ることを好んでいない事実。

そのとき、僕は寮生活でのあるシーンを思い出しました。
「夜中に抜け出して、ちゃんぽんを食べに行く」。
この最高の不良活動を先生に見つからぬよう、楽しむ。
抜け出せた時の快感は、計り知れません。なんたって
見つかったら「バリカンで丸坊主の刑」ですから。

でも、この刹那の楽しみも、永遠には続きません。
いずれ寮に帰ると、いつもの暗い空気に包まれてしまう。
帰りたくない。でも、帰らなきゃいけない。。。

それからというもの、僕は家を拠り所にする発想を捨てました。
家なんて、どこでも構いません。住むということと生活することを
似て非なるものと考えるようにしたのです。

ところが、結婚・出産となると、僕一人の問題ではありません。
めずらしく、というよりも初めて、棲家を真剣に考えています。
でも基本的には、どうでもいい。だけど嫁さんの機嫌を伺いながら
まじめに考えるフリをしています。

こうして、ようやく家探しが終わりそうなのですが、
帰りたくない。でも、帰らなきゃいけない。。。
と思いそうなほど、会社から離れた場所を選んでしまいました。

決して、夜遊びを正当化している訳ではありませんが、
あいかわらず、僕の家嫌いは続きそうです。

富田安則の過去のコラム一覧

2004 2007.07.13 働く。 Part?
2003 2007.07.13 働く。 Part?
1999 2007.07.12 住む。
1998 2007.07.11 結婚する。
1997 2007.07.09 学ぶ。
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