リレーコラムについて

祖母から逃げた僕

永友鎬載

10年前になりますが、僕はジャイアンツが好きで、
大学進学を口実に上京しました。

高2の頃、たまたま観た試合に感動したのが、
G党になったきっかけです。

当時、野村克也監督が率いるヤクルトスワローズは、
首位を独走していて、シェーン・マックや落合、
広沢、ハウエルといったホームラン打者をかき集めた
長嶋ジャイアンツに対して大きく勝ち越していました。

その日はいわゆる「札幌シリーズ」で
札幌円山球場で行われたデーゲームだったのですが、
中間試験だったため早く帰宅した僕はテレビをつけて、
ぼんやりと巨人・ヤクルト戦を眺めていました。

その試合で、衝撃を受けることになったのです。
(結構、うろ覚えではありますが)

巨人は大きなチャンスを迎えていて、
ヤクルトを攻めていました。

ノーアウト満塁。打席に入るのは
そのヤクルトから移籍した6番・ハウエル。

そこで長嶋監督がとった采配はというと、
ホームラン打者なので普通に打たせるのがセオリーなのに、
ハウエルにスクイズをさせました。

見事、成功。裏をかかれたヤクルトは、
またノーアウト満塁のピンチを背負いました。

それだけではありませんでした。
長嶋監督は続く7番・元木にもスクイズをさせ、
また点が入りました。

さらに、8番・村田にもスクイズさせて加点。
9番・斎藤雅樹にいたっては2ランスクイズを決めました。

つまり、4打者が連続でスクイズを試みて、全て成功したのです。
データを重視する野村監督を混乱させるような試合運び。

この日以来、僕は巨人戦に注目し続けることとなります。

ただやっかいなことがありました。
当時、僕は地元の高知ではなく岡山県の高校に通っていて、
祖父母の家に下宿していたのですが、
祖母が大の阪神タイガースファンでした。

特に、そのとき在籍していた新庄剛志が好きで、
甲子園で売っている新庄グッズをはじめ、
彼の活躍が載った新聞の切り抜きを集めていました。

おかげで、よく口論しました。

たいていのアンチ巨人の人が言うように
「讀賣は金にものを言わせて選手ばかり集めて好かん」と
祖母に攻撃されては、当時弱小だった阪神のだめっぷりを
指摘して反論する毎日。「亀山はそもそも練習に来ないじゃないか!」とか、
もう、むちゃくちゃケンカしていました。その頃の僕がもしもデスノートを
持っていたらと思うと、ぞっとします。

そんなある日のこと。

たまたま祖父が入院して不在だったときの食卓。

祖母と僕は、いつものように、野球の話をしていました。

その頃、巨人が負けこんでたので、
またいろいろ言われるなあと思っていたら、
なぜかその日に限って、祖母はおとなしかった。

さすがにおじいちゃんのことが心配なのかなあと思いました。
いつもは強気なばあちゃんだけど、案外、弱いのかもなあと。

すると、祖母が突然、ぼそっとつぶやきました。

「あたし、新庄に抱かれたいんよ」。

その日、ごはんを残して自分の部屋に
閉じこもったことを、はっきり覚えています。
もしもデスノートを持っていたらと思うと、ぞっとします。

ちなみに新庄が阪神を辞めてメジャーリーグに挑戦していた年、
日韓W杯を親戚一同が集まって観ていたときに、
祖母はみんなの前でこう言ったそうです。

あたし、ベッカムに抱かれたい、と。

これは実話です。ハンカチ王子に関しては、
まだコメントをもらっていません。

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