ラグビーが、好きだ
皇甫相太
ラグビーが、好きだ。
中学から大学までの10年間、ボクは、ラグビーをやっていた。
付属校で、受験もなかったから、ホントにラグビーしかやってこなかったと言っても過言ではない。
おかげで、落第しかけたことも、大怪我を負ったこともあった。
しかし、この、楕円の球を相手ゴールに持ち込むだけという、極めて原始的なスポーツが、ボクは、たまらなく好きだ。
ラグビーを始めた頃、よく聞かされた話がある。
「ラグビーは、紳士のスポーツだ」
たとえば、ラグビーには、ボールを前に投げてはいけないというルールがある。
理由は、卑怯だから。
紳士に、卑怯なことは、許されないのである。
相手ゴールにトライするためには、もちろんのことながら、ボールを前に進めなければならない。
にもかかわらず、ボールを後ろにしか投げられないという不条理を、「紳士だから」の一言でねじ伏せてしまう、強引なスポーツ。
ラグビーが、好きだ。
ご存知だろうか。ラグビーの試合は、どんなことがあっても中止にならない。
雨が降ろうと。嵐が来ようと。たとえ、雪が積もろうとも。
ラグビーの試合は、必ず行われる。
なぜなら、今日試合をする、と約束したから。
紳士は、一度交わした約束を、決して破ってはいけないのだ。
雨や雪のせいで、泥だらけになってしまうユニフォーム。それを、洗濯する大変さも、「紳士だから」の一言で片付けてしまう、お母さん泣かせのスポーツ。
ラグビーが、好きだ。
試合終了の笛の後、審判は、高らかに宣言する。
「ノーサイド!」
今からは、敵味方なし。である。
控え室に戻ってシャワーを浴び、ブレザーに着替え終わると、競技場の一室には、軽い食事とビールが用意されている。
乾杯とともに、レセプションと呼ばれるパーティーが始まり、さっきまで死闘を繰り広げた両チームが入り混じって、お互いの健闘を、ただただ称え合う。
まさに、「ノーサイド!」
もう、闘いは終わったのだから、その最中に起こった全てのことは、水に流さなければならない。
紳士は、過去の出来事に囚われては、いけないから。
殴られたり、踏みつけられたり、時には目潰しされたり。そんな痛みですらも、「紳士だから」の一言で忘れさせようとする、ご都合主義なスポーツ。
ラグビーが、たまらなく好きだ。
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