リレーコラムについて

ハナクソほどの反抗

川上毅

そうこうしてるうちにコピーライターに転職しまして。
29歳で新入社員です。
思えばこの頃がいちばんキツかったです。
今までの職場経験は役に立たんし、先輩は年下ばっかだし、
コピーはなかなかOKもらえないし、家のローンは抱えてるし。
外部の人と会っても見た目は中堅なのに
ぜんぜん仕事を理解してない自分がいて、
それを悟られないように必死でつくろったり。
広告の人は思ったことをズバズバ言うので
いちいちそれに傷ついていたり。
朝から深夜までその状態で会社にいるから
ストレスはたまる一方で「おれ、この仕事むいてないかも」と漏らすと
「そんなこと言うのは早いんじゃ」と、これまた怒られたり。
思うようにいかない状況に、ずっとイライラしてた気もします。

朝は一番に出社するわけですが、
当時は徹夜仕事も頻繁で、会社の隅で先輩が寝ていたりするわけです。
で、その人宛に電話がかかってきたりすると
いちおう声をかけるんですが「るせー!起こすな!」と怒られる。
まぁ、気持ちは分かりますが、これまたムっときます。
ムっときながらも先方にはさすがに「寝てる」とは言えず、
「ちょっと出てるので折り返し」みたいな話になるですよ。

でもこっちもムっときてるので
「出てる」ではなくホンマに「寝てる」と言ってやろうかと思いまして。
ふたつの言葉は音が似てるので
「寝てる」と伝えても、さすがに「出てる」と聞いてくれるだろうと。
きちんと言って、自分だけですっきりしてやろうと思ったわけです。
で、実際に言ってみると

「え!寝てるんですか?」

はっきり聞き取られました。
反抗目的とはいえ、会社の電話対応でこれはまずい。
ちょっと「寝てる」を強く言いすぎたかもしれません。
こうなったら次は「寝てる」と「出てる」の中間的な音でチャレンジです。
字で書くとすれば「ぇてる」
「申し訳ありません、○○は只今ぇておりまして」
どうなったか。
意識の中で「寝てる」が強ければ「寝てる」に
「出てる」が強ければ「出てる」に聞こえることが判明しました。
判明したのはいいんですが、当初の目的を見失ってます。

と、そんなアホらしいハナクソほどの反抗を繰り返し、
やがて一人で仕事ができるようになるのは数年後の話です。
どんな仕事にも「乗り越えどころ」みたいなものがあって
最初の乗り越えができるか、できないか、
そこが大きな分かれ目になるような気がしています。
新しくコピーライターにチャレンジされている皆さん、がんばってくださいね。
でも「乗り越えどころ」は次から次へとやってきますが。
わしも頑張ります。

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