リレーコラムについて

高級料理が苦手です。

小山佳奈

1年くらい前のこと。
某音楽会社の仕事の打上げで、
古川某CDが「ごちそうしてあげる」と、前髪をなでながら、
広尾の高級中華料理にみんなを連れてってくださったときのことでした。

その日は朝から撮影でした。
映画監督の岩井俊二さんにあれこれインタビューするという企画でした。
大好きな岩井さんに会えるだけでドキドキなのに、
私がインタビューする役を仰せつかっていたため、
朝から何ものどを通らないほど、緊張。
それでも撮影はなんとか無事に終わり、
澄んだ瞳で静かに熱く語る岩井さんに感動しながら、
いそいそとその広尾のお店に向かいました。

料理はすべておまかせ。
さすが古川さんがよくいくお店というだけあって、
ピータンからアワビから上海蟹から、とにかく高級食材の乱れ打ち。
見たことない料理の数々を、
「おいしいおいしい」と休む間もなく食べつづけました。

ところが北京ダックあたりから、
私の体がおかしくなり始めました。
そんなに飲んでもいないのに、顔がやけに熱くて、のどが渇く。
お腹がキュルキュルいい始め、お水を飲んでもおさまらない。
だんだん口数が減っていく私に元さんとむろいっちが
「大丈夫?」とやさしく声をかけてくれる。
「だいじょうぶです」となんとか答える私。
そこへ運ばれてきたのが、
「フカヒレの姿煮」でした。

見たことも、食べたこともない。
人生初の「フカヒレの姿煮」。
コラーゲンもすごいと聞く。
これは食べなきゃ、死んでも死にきれない。

で、食べました。
全部、食べました。
スープも飲みました。

その瞬間、完全に胃がスパーク。
とにかく気持ち悪い。
普通に座っていられない。
お腹の奥の方から聞いたことのない音がする。
朝からの極度の緊張で頭は酸欠、お腹は空っぽ。
そこへ見たことのない高級料理が次々となだれ込んできたことで、
完全に体がショック状態になったのです。
どうしよう。
でもここは、楽しい打上げの席。
ここで帰ってしまっては哀しすぎる。
(まだコース終わってないし)
よし、がんばろう。
あぶら汗をかきながら、
古川さんや高木さんのウイットに富んだ話を聞き、
残りのコースもなんとか食べ、
お店を出て二軒目に行こうとするみなさんに、
「ごめんなさい、ちょっと今日は帰ります。」とようやく言って、
タクシーにのりこむ。
家に着くや、一目散にトイレへ。
ドアを閉めるか閉めないかのうちに、
口から先ほどのフカヒレがほぼ元の形のまま、
ジョボボボボ!!
あぁぁ・・。
フカヒレ・・。
人生初のフカヒレが・・。
「あんたが私を食べるなんて100年早いのよ!」
フカヒレの声が聞こえます。
コラーゲンを吸収するどころか、消化することもできなかった。
まさに不消化。
ゴゴゴと渦を巻いて吸い込まれていくフカヒレたちが、
涙でぼんやりかすみました。

きたない話で、ごめんなさい。
あとあんなに美味しいものをごちそうしてくださったのに、
ごめんなさい、古川さん。
また、ごちそうしてください。
そんなに高級じゃないものを。

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