リレーコラムについて

ハテナとキメラについて

中山佐知子

ギリシャ神話に登場するキメラはライオンの頭に山羊の胴体、
蛇の尻尾を持つ怪物だが
生物学的なキメラは、ひとつの個体に異なる遺伝子情報を持つ細胞が
混じっていることをいう。
(ゲーム的にいうと主人公が手こずるモンスターのひとつだ)

人の中にもキメラがいる。骨髄移植を受けた患者だ。
自分と違った血液型の人から骨髄をもらうと
異なる細胞が異なる血液をつくるためにキメラになる。
(キメラになっても気にしなくていい)
ごく稀にふたつの受精卵からひとりの子供が生まれるが
これは「真の人キメラ」と呼ばれる。
二卵性双生児も母親の体内で細胞が混じり合うとキメラになる。
(しつこいけれど、こんな風にキメラになってもどうってことはない)

我々が食べているものだってキメラだらけだ。
カボチャに接ぎ木をしたキュウリ、冬瓜に接ぎ木をしたスイカ
果物はだいたいキメラが多いのではなかろうか。
リンゴもそうだし、柑橘系の一族はことに多そうだ。
香りがオレンジで味がみかんのキメラもある。
私が子供の頃に庭の桃の木に接ぎ木をしたが
あれも思えばキメラだった.
園芸の世界にはさらに多い。
斑入りの観葉植物はまずキメラと思って間違いはない。
いま流行りの遺伝子組み換えもキメラだが
こちらは、丈夫な桃の木においしい桃の木を接ぎ木するレベルではなく
DNAに直接ちょっかいを出して
人間にあまりに都合の良いものを大量に作ってしまうところが
あからさまに怪しい気がする。

さて、この世にいつから存在していたのか知らないが
「ハテナ」と名付けられた微生物が発見されたのは
2年ほど前のことだった。
こいつはおかしな生き物で、細胞分裂によって増殖し
その一方が植物に、もうひとつは動物になる。
植物ハテナは光合成でエネルギーを作ることができるが
動物ハテナはせっせと餌をさがさねばならない。
その餌とは植物で、餌を十分食べると
動物ハテナは植物ハテナに成長することができる。
こうなると食うためにあくせくする必要もなくなって
ただの人間が仙人になるようなものだ。

ハテナはキメラではない。誰かがDNAを組み替えたわけでもない。
すくなくとも人間は関与していない。
ハテナは100分の3ミリのカラダに進化の秘密を抱えているそうだが
進化というよりこの仙人化はうらやましい。

**お知らせです**

*来週のリレーコラムは白土謙二さんにお願いしました。

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 Tokyo Copywriters’ Street は、一倉宏さんの「私の取り扱い説明書」です。
 ナレーターは光野貴子さん。
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