見てはいけない〜後編
なんとかDVD再生を阻止する方法はないものか。
必死に考えるも空しく、彼の友達の家に着いてしまった。
何故か若い男たちが何人もいる。ラチャが誇らしげに答えた。
「日本のエロエロ珍しいね。みんな観てみたいね」
そうなのである。こんな小さな村では、噂はあっという間に広まってしまう。つまり、村の皆の前でこのような変態ビデオを自信満々に公開しては、彼の面目は丸つぶれだ。いや、そもそも日本という国も激しく勘違いされるのではないだろうか。それは避けなくてならない。
しかし、良い考えが浮かぶはずもなく、いよいよラチャのDVDがデッキへと入れられる。期待と興奮を隠せない若者たち。
私は目をつぶった。せめてインドの純朴な若者たちが、これをきっかけにスカ●ロ趣味に走るのを祈るしかない。牛糞を乾かして燃料を作るくらいだから、意外と好みに合うかもしれないじゃないか。
しかし、いくら待ってもDVDは再生されなかった。男たちがざわめき始める。
そして思い出した。確か日本とインドでは映像の形式が違うのである。日本ではNTSC、インドではPAL。
日本のメンツは守られた!
ブーブー文句を言った後、帰宅する村の男たち。ラチャは激しく落ち込んでいた。
「ゴメン。ハスモト。とっておきのエロエロなのに」
私は笑って言った。
「次に来るとき、日本からDVDプレイヤー持ってくるから、一緒に観よう」
ラチャも笑ってくれた。
「分かった。これ、それまでずっと宝物ね」
AVの話をするときに、私はいつも思い出すのである。
インドの小さな村の若者が宝物にしている、ずっと観られることのないスカ●ロビデオのことを。
〜終〜
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