中田ヒデへ
自分の体で触ったことがないところって、あるのだろうか?
ないと思います。
ならば、僕が知らない、僕を見ることはできるのか。
ベットの横に三脚をたて、自分の寝顔をビデオカメラで撮ってみた。
広告代理店なんかに勤めて、普段から年齢不詳を基本に過ごしていると
気づかなかったのだが、モニターに映る僕は立派な44歳のおじさんだ。
ビデオをまわし始めて、7・8分ほどすると
僕は軽い寝息を立て始めた。顔が軽く痙攣して、眼球が激しく動いているのが
閉じた目の上からもよくわかる。脳が活動しながら身体が休息に入る、
いわゆるレム睡眠という状態にあるのだろう。
「ガーガーガー」突然、大きなイビキをかきはじめる僕。
自分から出てくるあんな音、はじめて聞いた。
「彼方は、ほとんどイビキをかかない」
妻の言葉が僕への思いやりであることも知った。
いきなり目をカッと開く、寝ている加藤さん。
「そうなんだよ、タノウエさん」
44年間生きてきて、タノウエという知り合いは誓って一人もいない。
「ノダジリさんに言っておいて」
未知の知人、再び。
「銀のお釜がさぁ、パカパカッとパカパカッと」
充血した眼。お釜の開け閉めを表す両手の動作が、やけに素早く動く。
軽い眩暈を覚えた。背筋に悪寒が走っているのに、手のひらに嫌な汗をかいている。
スイッチOFF。はい、もう十分。終了終了。………。
しかしさー、あのさー、ねぇー
俺によく似た、モニターのなかのお前はいったい誰なんだ!
ヒデ。世界を放浪しなくても、自分探しの旅はできる。
でも新しい自分に出会うことは、いいことばかりだとは、限らない。
明日の第4回目は、『順不同・敬称略』です。んがぐぐっ