なんとはなしに(3)
小池麻美子
落ち込む、とか、気合を入れたい、とか、何かあると
そうだ、東京タワーにいけばいいのだ、と思ってしまう。
そもそもは3年ほど前、リリ・フランキーさんと江國香織さんの『東京タワー』を読み、まったく異なる2つのピカイチを生み出した“東京タワー”、
あそこにはきっと何か魔法がある、その魅力を確かめてみたい、
と思ったのがきっかけだった。
登ったことのある人にはわかることかもしれないが、
ことに、第2展望台に、ここの醍醐味がある。
窓ガラスごしに広がるパノラマ夜景、
キラキラとムーディーな明かりを放つ天井や足元、
そわそわと浮遊する男女たち。
その狭くあやしく光る空間は、青山あたりの小さなクラブみたい。
お洒落だ。
こんなにも東京は広いのに、
おかしいほど誰も私のことなぞ気にしない。
あてもなくゆっくりみてまわるうちに、
気持ちが鎮まって、ジブンを取り戻せる。
こんなにもたくさんのものがある中で、自分にとって
本質的な意味で必要なひとつふたつのことが、わかる気がする。どうしてだろう。
そのあとに控えている、地上2階のおみやげやさんには、
あの場所の底力がある。
広いスペースにポツンとお店にトコロ狭しとならぶ東京みやげ。
必ず修学旅行生がいる。
そこはかとなく漂う下町のようなさびれ感が、
ジブンが修学旅行生、まだ学校が世界の全部だった、
ときのような懐かしさを思いださせ、ワクワクさせる。
青山、ぐわっと降りると、下町。
栄枯盛衰が、いつもそこにある。
それを体感してしまうと、猛烈に寂しくなって、「帰らなくちゃ!」と思う。
ここにはいちゃいけない。
ここだけで東京が完結する、という非現実から、
もとの場所へ、フツウの日常へ。
一目散に帰る。
ジブンには帰ってくる場所がある、というあの感じ。
それを確かめるために、たぶん東京タワーにいくのだ。
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