女性を信じちゃいけない話。
私は、少し嫌な気持ちになった。
正しく言えば、妙な予感と、そんな迷信めいたものにココロを
支配されるなんて格好悪いという理性に挟まれて、
どちら側かにカタンと傾ききってしまえない
シーソーに酔ってしまったような気持ち悪さ。
あのマフラーをなくして以来、身の回りに起こる
些細な不幸のような、小さな不運のような連続。
そして、あの紺地に臙脂の縞のマフラーに私の手を伸ばさせた
ある成功者の呪文のような言葉。
今年は、赤が入ってるマフラーが最高運です。
私は、マフラーをあきらめるのをやめた。
なくしたと思われるクライアントのビルに2週間ぶりに訪れることになった。
あの日、マフラーをなくしたと言う私の言葉を聞き、クライアントに
探してくださいと電話をかけてくれたチエさんと一緒だ。
チエさん。万が一、ないか、もう一度、受付で尋ねてもらってもいいかな。
私は、安物のマフラーにこだわる格好悪さを誤摩化すように言葉をつづけた。
あれをなくしてから、なんか運まで落っこっちゃった感じなんだよね。
受付からチエさんが戻ってきた。
あるみたいです。えっ!?あったみたいですよ。
別の場所にとりにいくと、マフラーが私を待っていた。
チエさん。どういうことなの?
なくしたと思ったあの日、本当にクライアントに電話してくれたの?
全部探してくれたけど、どこにもないそうです、って言ってたでしょう。
その言葉を信じて、一度はこの幸運のマフラーをあきらめようとしたのに。
私は、そう言いかけて。
マフラーあって、よかったですね。
チエさんの笑顔を見て、ごめんと思った。(つづく)
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