リレーコラムについて

本を出します。

岩崎俊一

7月に初めての本がでる。
いままで書いてきたコピーをまとめた仕事集。仕事集ではあるが、僕は、この機会
にどうしても挑戦したいことがあった。
エッセイである。
広告以外の文章を書いてみたいと思った。
「コピーは僕だ。」とは、秋山晶さんの至言だ。確かにすぐれたコピーには、それ
を書いたコピーライターのまがうことなき視線があって、他の誰もそれに代わるこ
とはできない。
ただし、ここがおもしろいところなのだが、広告には必ず広告主がいる。そこには、
物を売る、企業の好感度を上げるという明快な目標があり、そこに最短距離で到達
するという至上命題がある。その制約、そのスピード感が性に合ってコピーライタ
ーをやってきたのだが、出版というまたとない機会を得て、「最短距離」を行かな
い文章に挑んでみたくなったのだ。あるいは、ちょっと自分をいじめたくなったの
かもしれない。

そして、まんまと隘路に迷いこんだ。
その時の心境をどう言えばいいのか。書きたいことはあるのだが、それをいつ書き
出していいのかわからない、という、とてもヘンな感覚に陥ったのだ。
もちろん、編集者のスタートの号砲は高らかに鳴っている。さっさと書き始めなけ
ればいけないのだが、どうしても原稿用紙に向かえない。この頼りない感覚はなん
なんだろう、と考えて、ふと思いあたった。
しめきりである。しめきりが遠すぎるのだ。もちろんそれだけの作業量があるから
遠いのだけれど、こういう経験は、かつてなかった。
編集者はこう言った。
「2ヶ月後には、半分以上書き上げておいてください」
2ヶ月後?
え、そんなに長いあいだほったらかされるわけ?
まいったなあ。だっていままで、そんなに長い時間もらったことがないし。
当面の目標物がないまま、茫漠と広がる海原を見て、途方に暮れたものだった。

(つづく)

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