リレーコラムについて

やっぱり仕事について考える

沢辺香

今の会社に入る前はフリーランスでした。

きっかけは、単純にその前の会社をやめてしまったから。
その会社では、コピーの基本を身につけさせてもらっただけでなく、
年の近い社員が集まっていて、趣味や恋愛や人の噂話なんかを
会社負担の残業食事をしながら和気あいあいと語り合う毎日。
のどかな時代の恵まれた環境で、今でも本当に感謝しています。
いつしかなんとなく自分ひとりでやってみたいと思うようになって
卒業した、という感じだったのかもしれません。 29歳でした。

すぐ仕事が入るあてもないのにとりあえずやめてしまったので
ちゃんと営業をしなくてはいけなかったのですが、
しばらくはずっと部屋でゲームをしていました。
一日パジャマのままでいて特にすることもなく、
日当りのよい部屋だったので、毛足の短い絨毯にくっきり映ったタンスの
影を指でなぞって線をつけ、影が移動するたびになぞっていると夜には
絨毯に放射状の線が残っていて、小さく感動したりして。
その時、今とりあえず住むところと貯金があって親も元気だからこうだけど、
これ、どれもなかったらホームレスの人と同じやん、とふと思い、
初めて、どこにも属していないことを怖い、と感じました。

フリーランスのいいところは、
金曜日の昼間にセールに行けること、映画館が空いていること、
絶好の洗濯日和に心ゆくまで洗濯ができること、
どうしても合わない人間関係を続けなくてもいいところ。
「打ち合わせです」と嘘をついて展覧会を見たり公園でぼーっとしたり、
他にも精神衛生上良いことがたくさんありました。
だけど恐ろしいのは、「来月何も仕事がないかも」というところ。
無名のこれといって特徴のないコピーライターの自分にくる仕事は、
ちょっと凝らしてみた工夫や丁寧さや速さを重宝がってもらえたことで
引き寄せられている、ということがだんだんわかってきて、
そういう仕事を本当に一生懸命やりました。
お金を稼ぐことと出ていくことについてシビアに考え、
保険や税金の「取られてる感」はじめいちいち国策に敏感になって、
選挙でもめっちゃ真剣に一票入魂していました。
よく「コピー紙は裏も使って節約しましょう」とか言われますが、
フリーならば裏紙以前にオモテ紙も自分で調達せねばならないわけで。

会社員に戻ってよかったこともたくさんあります。
だけど、「自分のためにわざわざ用意されている仕事はない」
という考えは今でも変わりません。
私を待ってる仕事はないけど、私は仕事を待っています。
いやいや最近は仕事をこちらから迎えに行ってやるぜ、という感じです。

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今日で終わろうと思ったんですが、明日もう一つ短いのをアップします。
6つも書いてスミマセン

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