旅の話
というわけで家族を犠牲にしてまいりましたが、そろそろ自分の話でつなぎます。
こないだ、会社に休みをもらってパリに行ってきました。30歳にしてついに初パリです。
いやー、すげかった。
エッフェル塔、ルーブル美術館、コンコルド広場、凱旋門。本州から出るのが13年ぶりという自分にとって、見る物全てが映画の中の世界のようでした。皆さんいつも、あんなところにロケにいったり有休とって遊びにいったりしてるのでしょうか?関西にある小汚いデスクの上で、パソコンに向かってあーでもねーこーでもねーとつまらん企画を必死こいて考えている自分と違って、そりゃー物の見方が広がる訳です。
で、パリの中でも有数の観光スポット、モンマルトルにも行ってきたです。
モンマルトル。バリ随一の猥雑なハードコアポルノタウンなのに、「モンマルトルの丘」という首都が一望できる広場や、映画でも有名なムーラン・ルージュがあるため、各国の観光客がじーちゃんばーちゃん赤ちゃん家族連れでくるカオスの街。
そのモンマルトルをブラブラしてたら、突然猛烈な便意に襲われまして、トイレを探しまわるハメになりました。仕方なくカフェで拝借するつもりだったんですが、のぞくカフェのぞくカフェ、トイレがきったねーったらありゃしねえ。紙はないわブツは置き去りにされてるわ、繊細な自分はさすがにそんなところでするわけにはいかないのであります。で、見かねたツレが、「そういえばアメリのカフェが近くにあるからそこ行ったらいいんじゃないの」と提案してきました。
アメリのカフェ?映画『アメリ』に登場したカフェが実際にある?映画のロケで使われるぐらいのカフェだったら、トイレなんかすげーキレイに違いない。今こうやって書き言葉にすると全く論理的じゃないことに気づくのですが、そのときの僕はとにかくウンコのことで頭が一杯でした。藁にもすがる思いで探しまわり、アメリのカフェ、「カフェ・ド・ムーラン」に辿り着いたわけです。
おーここか!このカウンターであのアメリちゃんが働いてたワケね、映画の中にあった壁がないからあれはセットだったんだなー、などと感慨に浸るヒマもなく、一目散にトイレに駆け込みました。
で、個室に入ったわけです。一見普通の、探してきた中ではまあ奇麗なトイレでした。
だけどなんとなく、僕が今まで人生の中で見てきた便器と違う。いやもちろん洋式です。紙もちゃんとある。しかし、なんだかあるはずのものがない。実際個室に入って気づくまで2秒くらいかかったんですが、なんと「便座」がないわけですよ「便座」が。
またダメなトイレに当たっちゃったな、と思って、下ろしかけたズボンをずり上げ、隣りの個室に移りました。するとなんとこちらにも便座がネー!一体こりゃーどーゆーこっちゃー??フランスじゃ便座は高級品で盗まれたりしてんのか?まてー便座泥棒!とか言って店の人が追いかけて、ついに便座を奪還して大切に持ち帰ろうとするとまた悪い人たちにつかまってお前いい便座もってんじゃんとかいって便座狩りにあったりして、と瞬時にストーリーが浮かびました。それとも、もしかして、フランス人はむき出しの便器であっても普通に座るするのが当たり前なのか??マジで?だってなんかコビりついてますけど?・・・しかし世界は広い。ありえるかも。
逡巡してる暇はありません。今そこにある危機が、確実に運命の扉をノックしているわけです。「もーいいかい?」「まーだーだよー!!」と人格が分裂しそうになりながら、僕は便器を見つめました。すると隣りから、おとーさんに連れられて個室に入ったらしいちっこい子どもの、気持ちよさげな声が聞こえてきます。鼻歌なんか歌ってるところをみると、こいつ完全に座って糞してやがる。なんかシランが直感的に、これは日本を試されてる、と思いました。人間、極限状態になると本当に何を考えるかわかりません。ドア越しに父親に向かって話しかける子どものフランス語が、「ヘイジャパニーズお前は便座がないとウンコもできないのかしかも大の大人のくせに」と言ってるようでした。
郷に入っては郷に従え、便座がナンボのもんじゃいと覚悟を決め、それはもう便器を念入りに拭き、ガシっと腰を直接下ろして用を足しました。僕は心の中で余裕かまして言い返してやりました。「ヘイボーイ。君の国は美しいが、トイレに関してはほんのちょっとだけ民度が低いかもね」。自分の中の何かの壁を、ぶち壊してやった瞬間でした。まあまあ気持ちよかった。
ところが戻ってきてツレにそれを告げると、あぜんとしながら言うわけです。色々あるんで箇条書きにしますと、
・ たしかにフランスには便座のないトイレは多い。
・ 従って、パリっ子は便器の上で中腰になって用を足す。
・ 従って、内容物が跳ねてトイレの便器はとても汚い。拭いても無駄。
・ 従って、そこに直接座った君の太ももは、今、非常に病んでいる。
なんだよそれを先に言えよ!!!俺初めてのパリなんだよ!!
しかも便座ドロも本当によくある話だそうです。一体何に使うんだ。
要約すると最近カルチャーショックを受けました、というまたまたダラダラな話でした。
きっと、海外経験豊富な人からしてみたら、全然おもしろくもなんともない話だと思います。