リレーコラムについて

あのときを、語ろう。〜僕は如何にして心配するのを止めて、面白くない自分を受け入れるようになったか〜

勝浦雅彦

自分は面白くない。

九州にきていちばんの発見は、この事実でした。

この仕事を目指す人って多かれ少なかれ、自分には人よりアイディアがあって、
面白い事が考えられて、世の中をどっかんどっかん沸かせられて、
NHKの司会をして、アイドルと結婚して、自分のブロマイドが女子高生に
バンバン売れて、いずれは総理大臣になってちょびヒゲを生やして・・・、
と思っている人が多いような気がします。ご多分に漏れず、僕もそうでした。

東京にいるときから、九州の広告って、とにかくコピーが効いて、
パワーがあって、面白い印象でした。自分だって今は制約だらけの広告作りを
しているけれど、ステージが変わればあんな面白い広告が作れるはず。
そう考えていました。

でもいざ九州で仕事をしてみると、自分が面白い、と思う企画がまるっきり
通らないんです。というか、そもそも評価もされません。
「どうしてこれが面白いの?」
「面白いと思ってるの君だけじゃない?」
・・・CDや先輩に、そう何度も打ち合わせの場で言われました。
先輩の企画には営業もマーケも笑っているのに、僕のにはクスリともしない。
せいぜいうなずく程度。
おかしいな、何でわかってくれないのかな?
そう考えて色んな角度から、「面白いコピー」、「面白いCM」を考えましたが、
まったく鳴かず飛ばずでした。

一年が経ち、いよいよあせってきた僕は、考え方を改めました。
「自分は面白くない。だから、とりあえず面白い広告を捨てる」
というものです。「捨てる技術」という本がありましたが、面白くない人間が
面白い広告を作ろうとしてもしょうがない。コピーライターの名刺を持って五年。
ようやく僕はその事実を受け入れることができたのです。

では、どんな考えのもとにコピーや企画を考えていったかというと、
「自分にしか考えられないアイディアで勝負する」
という単純なものでした。もちろん、これは非常に難しいこと。
でも、世の中に自分は一人しかいないのだから、必ず自分にしか生み出せない
アイディアがあるはずだ。その信念が僕を支えてくれました。

面白い広告をつくるひとは、すでに世の中にごまんといる。
「あんな面白い広告をつくりたい」というハンパな憧れはいったん捨て、
今の自分にしか書けないコピー、考えられない企画とは何か?
を真剣に考えていきました。

すると何ということでしょう(ビフォーアフター風)、
不思議なことに企画が通るようになり、もっといえばプレゼンで勝つようになったり、
ほめてもらえるようになりました。
僕が自然に足の向うままにたどり着いたそれらの広告は、
人から言わせると「いい感じの広告」という部類に入るそうです。
僕はこの言い方があまり好きではありませんが。

でもベースがあってこそ、それを伸ばすことも破壊することもできる。
新人賞を頂いた今こそ、僕の課題に「面白い広告をつくる」ことを
再度掲げたいと思います。
自分がつくった広告を見て、お腹を抱えて笑う人を見てみたい。
うーん、気持ちいいだろうなあ。

そして、全国に散らばる「自分は面白くない」「どうして面白いと思って
もらえないのだろう」と感じている制作者のみなさん、ぜひ「面白くなり隊」
を結成しましょう!(このネーミングも面白くないことこの上なし!)
徹底的に自分が面白くない、という事実を認識し、
そのやるせない気持ちをあらいざらいぶちまけ、自己嫌悪に陥り、
突き詰めたら、その先に何か光が見えるかもしれません。
中途半端はいけません。コンプレックスはジャンピングボードです。
面白くない人間の底力を見せてやろうじゃないか!(何の煽りだ)
そして、面白いものを作ってしまったら(しまったらって何だよ)、
即脱隊ということで。

・・・このコラムは面白いのだろうか、というそもそも論はさておき、
明日は同人誌とトン汁の話をしようと思います。

何かご意見・ご要望・入隊希望等がありましたら、
masahiko.katsuura@dkj.dentsu.co.jp まで。

NO
年月日
名前
5836 2024.12.26 小林大 極めるチカラ
5835 2024.12.25 小林大 泣かせるチカラ
5834 2024.12.24 小林大 う⚪︎ちのチカラ
5831 2024.12.23 小林大 コピーのチカラ
5827 2024.12.22 都築徹 包丁
  • 年  月から   年  月まで