リレーコラムについて

たたかえ佐々木君!

吉岡虎太郎

あたらしい友達ができた。ぼくの友達の中で最強の男だ。

佐々木嘉則くん、26歳、大阪府出身。188センチ、130キロ、得意技チョークスラム。FMW期待の新星で、現ハードコアタッグチャンピオン。高校を3日で辞めて某・横綱の付き人になったが、ある時キレて横綱の頬を張ってしまい角界から脱走、大仁田厚に拾われてプロレスラーになったという経歴の持ち主。とにかく子供に気に入られてしまうという希有の才能を持ち、飲み屋ではお姉さん相手に朝までずっと豆腐屋を演じきるナイスガイ。無類のおもちゃコレクターにして、元パンク・バンドのベーシスト。佐々木くんの尊敬する男、そして今もっとも戦いたい男、それはもちろん師匠・大仁田厚だ。

解説です。FMWとは乱立するインディープロレス団体の第1号で、大仁田厚がたった5万円の資金で旗揚げしたという伝説は有名。有刺鉄線電流爆破マッチという大ヒット商品を開発し、試合後に泣きながら叫ぶ「わしはプロレスが好きなんじゃー」という名コピーで大仁田は若者のカリスマとなる。その後大仁田は袂を分かち、現在のFMWはハヤブサ・冬木という2人の人気レスラーを中心に有象無象のエンターテイメント路線を歩んでいる。佐々木くんはその中でもストロングスタイルの、いわば本当に強そうなレスラーだ。きっと強いと思う。でかいし。

で、FMWはけっこう面白い。そのコンテンツは、ゲイ対巨漢女子プロ、AV男優対美少女レスラー、敗者が観客にパイを投げつけられるパイ投げマッチ、入場の際には演歌歌手が歌いながら先導し、AV嬢が試合に乱入するという多彩な演出。ハヤブサの華麗な空中殺法は見応え十分だし、悪どい冬木の理不尽なテクはかなり味わい深い。

彼らの目指すところは、きっとアメリカのWWFという団体なんだろう。ペーパーヴューでキャラクタープロレス路線を確立したWWFは今アメリカで大ブーム。株式上場とともに株価は急騰、新しい巨大エンターテイメント・ビジネスとして投資家の注目を集めている。その中身はマッチョマンたちの連続大河プロレスドラマ。4文字熟語を連発するパンクなヒーローが蘇った墓堀り人と抗争し、背広組の社長(本物)が反体制派のレスラーとリングで殴り合うというファンタジーの世界だ。

最近のアメリカンプロレスの情報公開は行きつくところまで行っていて、鉄人ルーテーズが「私は本気の試合などしたことがなかった」と言い放った伝記がベストセラーになり、シナリオをめぐってプロモーターと抗争するレスラーを追ったドキュメント(風?)ビデオもビデオ屋でカンタンに手に入る。もちろん筋書きがあるどころか、ブックと呼ばれるプロレスのシナリオを批評する雑誌まで出ているという。(by「紙のプロレス」)ケンカぎりぎりのルールを売りにするプライドやK−1が人気の日本とは正反対の現象だ。

さて、先日ぼくは横浜アリーナに長州対大仁田の有刺鉄線電流爆破マッチを観に行ってきた。日本のエンターテイメント派代表・大仁田を元アマレスのオリンピック代表長州力が一方的に制裁した試合だ。「俺は弱い」と堂々言いまくる大仁田は、自らの発案した有刺鉄線電流爆破のリングで、面白いほど何もできずに繰り返し被爆して病院送りになった。その日、1万8千人の観客はいつになく異様な熱気を感じとった。

これはイデオロギー戦争だったんだと思う。

アメリカのプロレス業界用語にワークとシュートというのがある。ワークとは通常のショー的なプロレスのことで、シュートとは相手の骨を折ってでも勝つというグレイシーがやってるような戦いのことだ。長州対大仁田はワークにしかなりえない。だって実力の差がありすぎるし、大仁田は無抵抗なんだもん。

おもしろいなと思うのは、日本のプロレスでは、ワークの中にもこまかい細分化が存在してる点だ。ちょっと極端に言うと、長州は「普段はワークをやっていても本当に強くなければリングに上がる資格はない」と考えている人で、大仁田は「本当に面白ければ誰がやったっていい」と考えている人なんじゃないか。

そして、試合後。完膚なきまでに大仁田を叩きのめした長州は、ドレッシングルームで「自分の負けだ」とコメントを出した。一方の大仁田は後日「弱い人間にもプロレスをやる資格はある」と発言し、弱い子供たちを集めてプロレスを教える学校を作りたいという夢のプランを発表した。卒業式に出れない登校拒否児をみんな自分の学校に集めて、卒業式の日にレスラー仲間で胴上げしてやるんだとも言った。あはは。

そんなこんなで、もしかしたらシュートよりワークの方がケンカなんじゃないかって思ったんだ。だって本当のケンカで本気出すかあ?考えてみてよ、本当にケンカするとしたらまずコトバでぎゃふんと言わせようとするでしょ、それでどうしようもなかったら取っ組み合いだけど、ケガなんかさせられないよね。させた方が後で困ったことになるのは目に見えてるじゃん。できればうまくネゴシエーションして、シナリオつくって勝ちたいよね。楽だもん!

だからシュート(バーリトゥードっぽいやつ)よりワーク(プロレスっぽいやつ)の方が、よりリアルファイトに近いって言うこともできるんじゃないかと思うのです。(←ここ、今回のコンセプト!)本当に本当のルールなしでケンカしたら、想像もつかないような方法で、大仁田がヒクソンに勝っちゃったりするんじゃないかって。ヒクソンがタックルしたら大仁田が爆発するとかね。

とかなんとか思いつつ、酔っ払ったイキオイで、FMW期待の新星・マンモス佐々木君に、新日本とかプライドとか他のリングで戦ってみたくない?って質問してみた。答えはNO。「いやー今、道場がめちゃめちゃ楽しいんスヨ」とにこやかに即答。そうか。そりゃ楽しいよね、AV男優から美少女レスラーまで、素敵な仲間が集まってわいわいカラダ鍛えてるんだもん。そりゃ楽しーわ、当たり前だわ。

かくしてアメ村のおもちゃ屋で5万円のライトサーベルを購入して上機嫌の佐々木君は、のっしのっしと次の巡業へと旅立ったのでありました。

がんばれ、佐々木くん!たたかえ、佐々木くん!
全国のちびっこたちがきみを待っている!!

(M佐々木選手のファイトはスカパーで見れますよ!是非!!)

NO
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