リレーコラムについて

海鮮レバー

安達和英

先日、
西麻布にある和食系の飲み屋に行ったときのこと。

席に座り、
とりあえずビールを頼んでから、
ゆっくりメニューに目を通す。
「なるほど、ここは魚料理に自信があるのか」
なんて、ページをめくっていると、
初めて目にする名前の料理に出会った。

“海鮮レバー刺し”

海鮮レバー?
なんだそれ?

レバーはもちろん、
白子、ウニ、フォアグラなど
こってりしたものに目が無い僕にとって、
ものすごく気になるメニューだ。

さっそく店員を呼んでみる。

僕)  海鮮レバーって何ですか?
店員) ホタテの赤いところです。
僕)  あー、あそこね!おいしいの?
店員) はい。おいしいです。
僕)  じゃあ1つ。

運ばれてきたものは、まさしくレバー刺し。
長方形に切られたレバーたちが、
6枚ほど、少しずつ重なり合いながら
皿の上に並んでいた。
色は、牛レバーよりも明るく、紅色といったところか。
それを箸で一切れつまみ、
ごま油に塩を加えたタレにつけて、食す。

これがまた旨い。

牛レバー同様、
こってり濃厚な味わいながら、
臭みなどはまったく無く、後味さっぱり。
なるほど、そこが“海鮮レバー”たる所以か。
気づくともう、次の一切れへと箸が伸びている感じ。
一気に食べきってしまった。

へぇ〜、
世の中には、
まだまだ知らない美味があふれているもんだなぁ〜。
なんて、満足気に次の食事をつついていると。

客A)  海鮮レバーって何ですか?
店員)  ホタテの赤いところです。
客A)  あー、あそこね!おいしいの?
店員)  はい。おいしいです。
客A)  じゃあ1つ。

ん?
この会話、さっき僕がしてたものと全く同じだぞ?

そのまた10分後、入ってきた客が、

客B)  海鮮レバーって何ですか?
店員)  ホタテの赤いところです。
客B)  あー、あそこね!おいしいの?
店員)  はい。おいしいです。
客B)  じゃあ1つ。

ん?
まただ。

その後も、僕が店を出るまでの2時間少々で、
この海鮮レバーのやりとりを、計6回も聞いた。
それは、この店に来た客の数と、ほぼ同じだった。

これは、確信犯か?

ここまで客の心理を計算して、
「ホタテのレバー刺し」ではなく、
「海鮮レバー刺し」とネーミングしたのか?

たしかに、
「ホタテのレバー刺し」と書いてあったら、
そこまで好奇心は煽られない。
“ホタテのレバー刺し?
あー、あの赤い部分のことだろうな。”
と想像がついてしまうからだ。
それどころか、
部位の想像がついてしまうだけに、
味まで勝手に想像し、
その想像した味で、「頼むor頼まない」の判断をしてしまいそうだ。
店員に聞くまでのこともなく。

でもそれを、「海鮮レバー刺し」と名付けてみる。

食材の説明は前者よりもできていないが、
そんなのどうでもいい。
美味しさが担保できていて、かつ、気になるネーミングであれば、
その「説明の足りなさ」が逆に武器となる。
客を、好奇心地獄へと引き込む武器。

店員を呼び、
海鮮レバーとは何かを知り、
「おいしい」とのお墨付きを受け、
食べたいと思い、
注文してしまう。

店側に一本!

さらに、それを食べた後、
「なるほど、海鮮レバーだ。」
と納得してしまうほど味を言い得ているところが、またニクイ。

ほほぅ。

言葉の選択ひとつで、
商品の売り上げも大きく左右するんだ。
と、肌で感じた西麻布の夜でした。

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