I大福

最近、女性誌のスイーツ(笑)特集でよく見かける、
この言葉が気になります。

「頑張った自分へのご褒美」

ということは、逆になにか怠けたりミスしたときは、

「ヘタこいた自分への罰」

も与えたりするんでしょうか。女性って、ホント謎ですね。

かく言うぼくも、中山佐知子さんに

「いちご大福」

などと命名されており、このままだといま流行りの

「スイーツ(笑)男子」

だと思われてしまう危険性大。
そのブランディングにうまいこと乗って、
脳みそのホカホカした人畜無害風を装っても別にかまわないのですが、
かろうじて残っているぼくの鼻くそほどの良心が、

そんなカワイイもんじゃないよね、アンタ?

と言うので、訂正しておきます。

ぼくはこれまでかなりの数の「×」を多くの人に出されてきました。
そして去年、人生最大の「×」を出されました。

詳しいことは書きません。ヘタレなので。
ぼく自身まだちょっとつらいですし、
いろんな人に迷惑がかかる可能性もあります。
たまたまこれを読んだヒマな人に怒られちゃうかもしれませんしね。

とにかくぼくはその「×」に対する「罰」として、
死ぬほど好きだったお酒をやめました。
(やめざるを得なかったと言うほうが正しいけど)
真夏日のビールにも、寒い日の熱燗にも、パスタに合うワインにも、
深夜のオサレなバーで傾けるロックグラスにもサヨウナラ。
いちご大福が好きなのは、なんのことはない、
お酒をやめたら甘いものが好きになった。
ただ、それだけのことなのです。

しかし、落ち込むこころとは裏腹に、
からだはみるみる健康になりました。

体重9キロ減、体脂肪率13.5%、ズボンはぜんぶブッカブカ。
元々べつに太ってはいなかったので、
減った分はほぼすべて内臓脂肪ってやつなんでしょう。

「お酒はエンプティーカロリーだから太らない」

という話をたまに聞きますが、
あれは戯言だということがよくわかりました。
たぶんぼくいま、人生でいちばん健康です。

次に、一日が長くなりました。
飲んでた分の時間が、まるまるヒマになっちゃうわけです。
別に趣味らしい趣味もないので、やることは仕事しかありません。

クリエーティブに異動したてのときのようなクリーンな気持ちで、
もう一度コピーや企画に打ち込めたのは新鮮なよろこびでした。

そして何より「どうでもいいや」と開き直れたこと。
ゼロに何をかけてもゼロなんだから、
もうどう思われたっていいや、と。

これがいちばんデカかった。
それまでは採用されたい想いが強く、
どうしても「当てにいく」コピーや企画が多かったのですが、
どの仕事でもやりたいことをやりたいようにフルスイングしました。
どう思われるかを気にして言えなかったような意見も、
ズケズケと言えるようになりました。

でも不思議なもので、そのほうが仕事ってうまくいくんですね。
嫌われないように人の顔色ばっかり気にしてても、
いいことなんてなんもない。そのことに気づけたのは収穫でした。

人生って、つくづくわからないと思います。
ターニングポイントって、必ずしもいいこととは限らない。
ぼくは大きな壁にぶつかったおかげで、人生の方向転換ができました。

健康とヤル気とこころの自由を手に入れたのも、
結果として仕事が全部うまくいったのも(しかも楽しかったし)、
みんなあの大きな「×」が踏み台になってくれたおかげです。
おまけに新人賞まで頂けちゃって。
たしかにスタートはツイてなかったけど、
振り返ってみればそんなに悪い一年でもありませんでした。
まあ、「○」とは言わないまでも「△」くらいにはできたかな、と。

お酒をやめるきっかけをくださった皆さんと、
支えてくださった皆さんには感謝の言葉もありません。
お酒は人生を変えると言いますが、あれは本当ですね。
特にやめたときの方が。

なんちゃって。

余談ですが、去年のちょうどいまごろクルマを買いました。
衝動買いです。

イタリア製、小型車(ミニより小さい)、1400cc、
後部座席激狭、しかも3ドアという、
スペック的には絶対に買わないクルマでしたが、
実物を見たら一目ぼれしてしまったのです。

何でもいいから人生を変える思い切ったことをしたかったのと、
「Diesel」とコラボした限定車だということを言い訳に、
ぼくは恋に落ちるようにハンコを押しました。

クルマの衝動買いなんて、もちろん初めて。
でも、これがよかった。
35歳にして、クルマが趣味になったのです。
それまでもクルマは持ってましたが、
何で行くかより、どこへ行くかの方が大事でした。
ところがいまは、ただハンドルを握っているだけでしあわせ。
お酒も飲まないから、夜中だろうとどこへだって行けちゃう。

ぼくの「頑張った自分へのご褒美」は、
そのクルマと日本各地のいろんなスイーツ(笑)を
食べに行くことになりましたとさ。