手紙を待っていた頃
つい、こないだのこと。
出社するとデスクに社用封筒が一通、ポツンと置いてありました。
誰だろう。
のっぺらぼうの封筒から出てきたのは、
もう何年も前の撮影現場の写真が何枚か。
いま思えば人気の絶頂期だった俳優さんや、
いまより少しだけツヤツヤしてるスタッフの面々、
なんとなくその場で一緒に仕事をしてる風の自分の姿もありました。
そして、メモみたいな簡単な手紙が、ぴらりと。
ロッカーを整理してたら懐かしいものが・・・(以下秘密)
くれたのは、当時一緒に働いていた営業の後輩で。
嬉しいことしてくれるなぁ。
あれから社内の組織が変わって
いまはすっかり顔も見かけないけど、
彼女の書いた文字から声が聞こえてくるようで、
急に、彼女のえらい男前な仕事っぷりを思い出しました。
手紙なんて滅多にもらうことのない、
まして書いたりすることもない、
いまの自分からは信じられないけど、
メールボックスを見に行くことが何より楽しみだった、
そんな日々がありました。
いまから17年前、1993年の秋。
21歳だった自分は生まれて初めてのアメリカで
1年間の留学生活を始めました。
インターネットとかe-mailがまだまだダメで、
グランジとジャパン・バッシングが最高に盛り上がっていた
そんな時代。
学生寮には一人一人のメールボックスがありました。
手紙が届くのは夕方の4時と決まっていて、
時間になると一人、二人と、受け取りに来る者が現れます。
留学生はみんな16時ぴったりに。
早く来すぎて待ったりすることもあったりして。
それくらいみんな楽しみにしてました。
10cm四方ほどの小さなアルミの扉を開けた瞬間、
そこに封筒があるかないかの天国と地獄。
仲がよかったデンマークの女の子は手紙が無いと
「ファーーーーーーーーッ□!」と絶叫、
嵐のように不機嫌になって自分の部屋へ駆け出すし、
マレーシアの男の子はヘヘヘと笑って図書館に消えていくし。
悲喜こもごも、阿鼻叫喚。
毎日楽しくやってるけど、みんな寂しいわけです。
自分も、
あんなに手紙を書いたりもらったりすることは、
もう後にも先にもないだろうなぁ、と思います。
彼女からの手紙。
友達からの手紙。
親からの手紙。
弟たちからの手紙。
みんな、それまで手紙でなんかやりとりしたことない人たちばかり。
話しかけるように書かれた手紙。
日記をつけるように毎日のことを報告してくれる手紙。
何かいいこと書こうと頑張ってくれてる手紙。
うれしい手紙。
笑える手紙。
泣ける手紙。
つらい手紙。
励まされる手紙。
本当に、たくさんもらったし、たくさん書きました。
留学できて良かったと思うことは数えきれないほどあるけど、
この抱えきれない手紙のやりとりができただけでも、
その甲斐がありました。
いまはメールやスカイプみたいに便利な道具があって、
顔が見たい、声が聞きたい、という気持ちがかなえられるから、
(あと、触りたい、がかなったら、会う必要もなくなるか)
手紙なんて面倒なものはきっと書かないだろうな。
それはそれで素晴らしいことだと思うけど。
最後に、手紙にまつわる自分の大好きな言葉を紹介したいと思います。
アラスカを撮り続けた
写真家/星野道夫さんの文章の一節です。
撮影のため一人きりで原野を歩き回ること3週間。
心身ともに擦り減らしてようやく無事に迎えた最終日の夜、
焚き火の前で彼が思うこと、です。
・・・まずはともかく、風呂に入りたい。
垢を落とすというより、
熱い湯に何も考えずひたっていたいのだ。
そして最大の楽しみ、手紙をチェックしに行こう。
たくさんの手紙が届いていればいいなあと思う。
そして行きつけのベーカリーでうまいパンを食べよう。
コーヒー一杯でいくらでも粘れる、
あの大学通りのベーカリーだ。
手紙はゆっくりとそこで読もう。
きっとだれかにその店で会うだろう・・・。
最高だなぁ、こんな人生は。
と、なぜか突然加山雄三風味で。
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