世界はそれを、危機と呼ぶんだぜ。
〜前回の続き〜
…重苦しい空気を切り裂き、
クライアントのアマゾネス軍団の1人、
S女史が口火を切った。
「これは我が社にとって非っ常〜に重要なプロジェクトであり、
このようにNew York、London、TOKYOから、
世界レベルの提案をして頂けることに心から感謝し、
VERYエキサイティングしています。」(超訳)
そう。
そもそも、なぜ私(英検3級)が、
この世界的グローバル企業の本社のプレゼンルームにいるのか。
http://twitpic.com/2odl4d
それは、今S女史が言った世界3チームのうちの
「TOKYOチーム」の代表として、なのである。
一週間前、第1回目のプレゼンをNYで行ない、
はっきりいってTOKYOチームの提案が最も評価が高かった。
ゆえに、本社での役員プレゼンに、こうして呼ばれたのである!
東新橋のデザイナーとコピーライターは、軽く世界レベルなのである!
日本語レベルなのは、ここにいるこの私だけなのである!
とにもかくにも、
S女史の号令を受け、我々のプレゼンが始まった。
米国広告クリエーティブ業界の生きる伝説、Mr.Bが、
New Yorkチーム案、Londonチーム案のコピーを説明する。
さすが60代後半のテクニシャン、話し方はボソボソだが、
心をつかむのは抜群に上手い。
しかし横にいる私は、実は軽いパニックに。
この流れでTOKYOチーム案の説明だけ振られたら、ヤバい。
Mr.Bみたいに上手く説明できないぞ、こりゃ。
ここで当たって砕けたら、
日本男児としてはいさぎよい。
あとで脚色して武勇伝にしよう。
しかし、砕けている場合ではない。
このプロジェクトの重要性は、S女史に言われなくてもわかっている。
ここで決まった案は、世界展開されるのだ。
冷静に判断し、TOKYOチーム案のコピーも
Mr.Bにプレゼンしてもらいたい、とサインを送る。
彼は、私の代わりに実に素晴らしく説明してくれた。
コピーに続いて、デザイン案の説明へ。
ここぞ、とばかりにMr.B は立ち上がって前に出て、
モニターに映写されるデザイン案を次々と解説していく。
俳優のように雄弁に、女優のように繊細に。
プレゼンはクライマックスへ。
ここまで来れば、もう安心。
なんのために飛行機代を出してもらってここにいるのか、という問題はあるが、
少なくともプレゼンがちゃんと行なわれているかどうかの
見張り役にはなっている。(情けない。)
いや、我々の仕事の本質は、
プレゼンではなく企画なのだから、これでいいのだ。
「・・・で、このTOKYOチームのデザイン案は、
彼が説明します。」
え? 彼? 誰?
会議室の11人が、一斉に目を向ける。
完全に油断して、観客の1人になっていた、私に。
前回のプレゼンは、カンニングペーパーでなんとかなった。
しかし今、この瞬間、そんなものは手元にない。
例えあったとしても、
前に出て説明するのにカンペを持つわけにはいかない。
頭がまっしろになった。
22の瞳の圧力で、夢遊病者のように前に歩み出る私(英検3級)。
絶体絶命とは、まさに今。
続く。多分。
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