リレーコラムについて

師匠がまだ来ない件。【前編】

北田有一

どんな業界でも、どんな会社でも、
右も左も分からない新入社員は、まず先輩に付いて仕事を覚えます。

コピーライターも同じように、先輩コピーライターに付くのですが、
その最初の師匠の影響力はすごく大きい。

おおげさに言うと、その後のコピーライター人生は
その人に掛かっているわけです。

嫌われたら、終わり。お先まっくら。
仕事もなくなって、すぐに営業に戻されます。
(少なくとも、昔はそう思い込んでいた。)

というわけで、クリエーティブに配属されて1日目。

とにかく師匠より早く出社して、元気に挨拶をしよう作戦です。
この作戦は鉄板です。

この作戦で「うんうん、かわいい後輩だなぁ」と
思わない先輩はいません。

始業時間の1時間前に、会社到着。
もちろん新入社員に仕事などありません。
ただボーッとネットを見て、ひたすら待つのみです。

始業ベルが鳴ります。そろそろ来るか。
ちょっとトイレに行きたいけど、我慢します。
だって、トイレに行ってる間に師匠が来てしまったら、
早起きした努力も、水の泡です。
コピーをひとつも書く前に、コピーライターとしてTHE ENDです。
(少なくともその時は、そう思い込んでいた。)

破裂しそうな膀胱を押さえながら、3時間が経過。
一向に師匠は現れないまま、お昼休みに突入。

結局、その日、師匠は来ませんでした。

そんな日々が続き、師匠が来ない新人コピーライター4日目。

ひとりの社内プロデューサーが僕の席にやってきました。
「ねぇ、平○さん(←師匠の名前)、知らない?」

師匠の予定を把握しておくことは、
下に付いている後輩としては当然の職務です。
みんなが師匠の行動を知っているものだと思っています。

しかし、こう答えるしかありません。
「すみません、ちょっと分からないです。」

この時、そのプロデューサーは、
「チェ、使えない奴」と思ったに違いありません。

この噂が社内中に広まって、
師匠に会う前に、すでにコピーライター失格の烙印を押されて、
異動させられても不思議ではありません。
(少なくともその時は、そう思い込んでいた。)

でも、会ったことないんだもん。。。
(補足:この頃、師匠が会社にいなかった理由は、
    海外ロケなどで多忙だったためだと思います。)

そして、5日目。運命の出会いです。

いつも通り、デスクで熱心にコピー年鑑なんかを眺めていると、
(3日目くらいにコピー年鑑の存在を知りました)
突然、横に見たことのない人が座っています。

あれ?この人が師匠?会社のプロフィールの写真と全然違うぞ。

写真だともっとギラギラしたD通マンって感じの人。
横にいるのはまじめそうで、クールなインテリ風のクリエーター。
見た目も若そうだし。(その時は、そう思ったんです。)

恐る恐る、話しかけてみます。

「○石さん(←師匠の名前)ですか?」

「はい。(キョトン)」

(うわ、本人だ。慌てて自己紹介します。)

「平○さん(←師匠の名前)に付くことになった
 北田と申します。よろしくお願いいたします。」

「あ、そうなんだ。とりあえず、しばらく日誌書いといて。」

(えーー、それだけ?興味なさそうです。
 そうか、君がかわいい後輩か、今夜、飲みにいくぞ!とか、
 特にそういうやりとりはありません)

「他に何かやることは?」

「とりあえず、いまは大丈夫」

やばい。いきなりファーストコンタクト大失敗です。

何を間違えたか分からないけど、
日誌を毎日書くなんてきっと何かの罰だ。
一昨日の社内プロデューサーの一件が広まったのか。
あー、とにかく来週からスーツに戻って働くしかない。
短いコピーライター人生だったなぁ。
(少なくともその時は、そう思い込んでいた。)

【中編】へつづく

NO
年月日
名前
5793 2024.11.05 御倉直文 コピーと短歌は似ているか?違うか?
5792 2024.11.04 御倉直文 短歌、はじめました。
5791 2024.11.01 長谷川智子 愚痴る力
5790 2024.10.31 長谷川智子 茄子の煮物はタイムマシン
5789 2024.10.29 長谷川智子 スペイン語に騙されて。
  • 年  月から   年  月まで