師匠がまだ来ない件。【後編】
【中編】のつづき。
人生はじめてのラジオ収録です。
クライアントが来る1時間前に集合ということで、
張り切ってスタジオに向かいます。
かなり師匠の力を借りたとは言え、
自分が考えた初めてのラジオCMがいよいよ形になるわけです。
遠足に向かう、子供のような気分です。
ドキドキして、ワクワクして、早くスタジオに行きたくて、
30分前に着いてしまいます。
当然、まだ師匠は来ていません。
というか、前編、中編を正しく読んで頂いていればお分かりかと思いますが、
収録の時間になっても、師匠は来ません。
仕方ないので、収録がはじまります。
人生初のラジオ収録ですから、師匠が来ないひよっこコピーライターに
できることなんて、置いてあるお菓子を食べることくらいです。
もちろんプロのディレクターやミキサー、ナレーターがいるので、
それなりにその場は進むわけで、こうやって収録は進むのか、
と感心していると、
ディレクターが、急に振り返って、
こんな若造でいいのかって怪しげにこちらをにらみながら(被害妄想)、
聞いてきます。
「僕は良いと思うんですけど、どうですか?」
何も分かっていないのを悟られないように即答します。
「は、はい。僕も良いと思います」
いや、原稿通りに読んでたし、それなりに面白いし、
その時は本当に良いと思ったんです。
すると、ディレクターが予想外の一言を放ちます。
「じゃあミックスしちゃいますね?」
え?ミックス?ミックスってなに?なにを混ぜるの?
別にジュースの話じゃないぞ、このラジオCM。
適当に「はい」と答えそうになったその時、
本当にまるでマンガのように、颯爽と師匠が登場します。
どこかで見ていたのか、この人は。完璧なタイミングです。
師匠が、ミックス前のものを聞きます。
2回ほど聞くと、ナレーターの読み方について軽く指示を出します。
よかったー、(なんだか分からない)ミックスをしなくて。
そして、あらためてナレーションを録りなおしてみると、
全然ちがう。本当に、急に面白くなって、
それまでシーンとしていたスタジオの中に
クスクスという笑い声が生まれるようになったのです。
なんだ、これは。こんなこともコピーライターの仕事なのか。
その後、クライアントが来て、一発オッケー。
最初の45分はなんだったのか。ハッピーターンを食べていただけじゃないか。
と激しく落ち込み、師匠の偉大さが身にしみます。
師匠はきっと「俺がスタジオにいたら、新人は意見も言えないだろう。
まずは一人でやらせてみよう。最後は俺がなんとかしてやるぜ。」
というかなり男前な考えで遅れて来たのでしょう。
いや、そこまで考えてはないと思いますが、
でも、その後の仕事でも、「下に任せることは任せる、でも責任は持つぜ。」
という意識を師匠からはいつも感じます。
これって、結構すごいことだと思うんです。
ぜんぶ俺の言う通りにやれ!俺のこだわり(ダサイ)が分からないのか!
っていうタイプの先輩(だいたい案がつまらない)や
途中まで任せるだけ任せて、最後めちゃくちゃにしてしまうCDは
いっぱいいますからね。
(と聞きます。僕はそういう人と仕事したことないですが。)
【完】
——————–
というわけで、
電通の北田有一です。
師匠の平石さんから光栄にもTCCリレーのバトンを頂きましたので、
このコラムを読んでいる新人コピーライターや学生の方の
参考になればと思い、自分の新人時代のことを書いてみました。
ちなみに、恥ずかしいので、
普段、平石さんのことを師匠と呼んだりはしません。
話がドラマチックになるので、師匠と書いてみました。
たぶん、これを見たら、本人は嫌がると思います。すみません。
そんな平石さんとは今でも仕事をご一緒させていただくことは多いのですが、
相変わらずその力に驚かせられ、勉強になります。
最近の話で言うと、
TOEIC400点(本人談)でいきなり海外に行って、
超ビッグな競合に勝ったり(詳しくは平石さんのコラムを参照)、
連絡なしでプレゼンに来ず、僕の対応力とプレゼン能力を抜き打ちで試したり、
すごく緊張感のある日々を送っています。
【重要】
ご本人の名誉のために言っておきますが、
「来ない」と言ってもたまにです。いつもではありません。
しかも、それは激しく多忙だからです。
それと、くれぐれも誤解のないように言っておきますが、
僕がこの前、45分遅れたときは、すごく怒られました。
なので、決して遅刻を「良し」としている方ではありません。
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