リレーコラムについて

怒られた時は、チャンスな件。【後編】

北田有一

【前編】のつづき。

講堂は、満員です。
2000人以上の人たちが、こちらを見ています。
カンペを持つ手が震えます。

全校生徒の前で話すのは初めてではありませんでしたが、
大観衆の前でウケをとろうとするのは初めてです。
生徒や先生たちだけならまだしも、新入生のご両親も来ています。

これからかわいい息子がお世話になる学校の生徒会長は、
どんな素敵な言葉を掛けてくれるんだろう。
きっと、キラキラした目でこちらを見ていたことでしょう。

そして、話し始めました。

 「新入生のみなさん。入学おめでとうございます。

  いま、みなさんは、新しい高校生活を前に、

  股間を大きくふくらませていることでしょう。」

これが神聖なカトリック高校の入学式で披露された、
歴史上はじめての下ネタです。(本当にすみません)

大して面白くないというか、はっきり言って、3流の下ネタですが、
講堂の2階(主に同級生が座っている)を中心に笑いが起こります。
高校生なので、そんなものです。

残念ながら、これ以上スピーチの内容を思い出せないのですが、
本当に見事に、ひとつひとつのネタがウケるんです。
気分を良くしてしまい、ひたすら突っ走りました。
もちろん、笑い待ちをするという知識など、素人にはありません。
とにかく、ウケてるから、このまま最後まで話しちゃえ。

2分もない、スピーチだったと思います。
でも、今までこの神聖な講堂が体験したことのないくらいの
爆笑の中で終わりました。

気分は有頂天で席に着きます。
きっとこれで新入生の緊張もほぐれたことだろう。良い仕事をしたなぁ。

そんな勘違いをしていると、
なかなかおさまらない会場の笑いとザワツキに
苛立った司会の先生(教頭)が怒鳴ります。

「静かにしろっ!」

この一言で、我にかえりました。

あれ?怒ってるぞ。もしかして、ヤバいのか?
その時はじめて、うっすらと、ことの重大さに気づき始めます。

それから入学式は、元のカトリック校の、厳正な入学式に戻り、
何ごともなかったかのように粛々と終わりました。

そして、順番に講堂から退場します。

すると、ちょうど講堂の出口のところで、
鬼のような形相の先生(化学)が待ち構えています。

こちらを見つけるや否や、ものすごい勢いで近づいてきます。

「おまえ何やってんだよ!」という怒号と共に、

「パシーン!」

左ほほに、ビンタが華麗に決まります。

カトリックでも、罰の与え方は、他の高校と同じです。
古き良きビンタが、確か3発くらい。

この時、はっきりとことの重大さに気づきます。

そして、「職員室に来い」と言われ、そのまま連行されます。

その後は、生徒会の顧問の先生にたっぷりと説教された後、
校長先生への謝罪、親の呼び出し、
訓告処分(学校からの公式な厳重注意)などを経て、
真摯に反省し、元の高校生活に戻ります。

それから、1週間くらいした頃でしょうか。

授業の後、X先生に、部屋に呼ばれました。
X先生は、怖いことで知られている有名な先生で、
そもそも、あまり話をしたこともありません。
うわー、また怒られるのかぁ、と思って付いていくと、
意外なことを聞かれます。

「あれは、自分ひとりで考えたのか?」
(「あれ」とは当然、「あの下品きわまりないスピーチ」のことです。)

「はい、すみません」

「いや、もうたくさん怒られただろうから、もう謝らなくていいけど、
 TPOはちゃんと考えないと、せっかくの面白い話が、もったいないぞ。」

驚きました。これは、新しい視点です。
怒られたというより、褒められたのか?いや、褒められてはないぞ。
ダメ出しか。そう、愛のあるダメ出しです。泣きそうになります。

面白いことがいけないんじゃない、
場をきちんとわきまえなかったことがいけないんだ。

当たり前のことですが、
心に残る大切なことを学ぶことができました。

(あの時、迷惑をかけた皆様、本当にすみませんでした。)

【完】

—————————-

というわけで、
今週は、電通の北田有一でした。

特に、仕事と関係ない話だったんですが、
仕事上でも怒られることってあります。

実は、数年前に、弊社のものすごく偉い役員の方に、
ひどく怒られたことがあります。

それはここでは書けないような話なのですが、
その時のことがきっかけとなって、
今でもその方は色々と声を掛けてくださったり、
相談に乗ってくださったりするようになりました。
とても貴重な出会いになりました。

怒られた時は、チャンスです。
(もちろん、ちゃんと反省をした上で。)

そして、いつか自分が怒る立場になったら、
素敵な怒り方のできる大人になりたいと思います。

さて、来週のリレーコラムは、

大学の時のサークルの同期で、博報堂のイケメンコピーライター、
細田高広くんです。

大学1年生の時に、サークルで何か出し物をしないといけなくて、
一緒にコントをやったらひどくスベリました。

あれから10年。
いつの間にか2人ともコピーライターになっています。
しかも、彼はイケメン兼コピーライターです。

彼がどれくらいイケメンか知りたい方は、
白い犬のお父さん(または宮沢りえさん)の年鑑をご覧ください。

では、細田くん、宜しくお願い致します。

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