コピーライターということ
平山浩司
「そろそろ、次のこと。」丸井のキャンペーンフレーズを書かれた石丸さんとはじめてお会いしたのは、まだコピーライターになる一年前。営業時代のことだった。石丸さんは原宿のデルタモンドにいらした時期で、僕は石丸さんの書かれた雑誌の原稿を取りに時々伺っていた。そのボディコピーの中に、正確に覚えてないが、「監督で映画を観る、という人が増えてきた……」という件があった。1987年くらいの話。今では当たり前になっている映画との付き合い方のひとつ(つまり、封切のものを追いかける、というのではなく、ある監督の作品を選んで観る、たとえば、ハケネのもの、オリベイラのもの、キム・ギドクの作品を続けて観る)だが、その頃は、いわゆる「走り」で、それはビデオのソフトが充実したからこそ可能になったことだが、その一節に一人で深く感心したことを覚えている。目の前で既に起きていることだけど、まだ自覚されていない、そんな時代の先っぽにある事柄を巧みに捕獲する。普通のことだから、自分にもできそうなんだけど、いや、なかなか簡単じゃないぞ、というのがその時何故だかわかった。だから、感心した。大向こうを張ったコピーなんてのは書けても、これは何か特殊な「素養」(「才能」とはちょっと違う)がいる。そんな気がした。あれから20年以上たって、今では、それこそが他のライターとコピーライターを区別するんじゃないかな、と思ったりしている。そして、ここ十数年、そんな一節には残念ながら出会ってない気がするが、皆様いかがでしょう。
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