コピーライター
平山浩司
昨日のコラムを続けてみたい。キャッチフレーズを書くことを簡単なことと言う時、それを額面通り受け取るわけにはいかない。キャッチフレーズを書くことは、なににもまして大変で重要なことだ。おそらく細田さんは「書くこと」以前、言語化以前の作業を、「書く」という行為と腑分けして話したかったため、あえてそういう言い方をされたんだと思う。それくらい「書く」ことは、魅力的で、特権的で、思考停止させる行為だからだ。それはしばしば、このコラムで使った「才能」という言葉と似てる。さて、「書くこと」以前、と言うと、どうせコンセプトメイクとか、そんなことになると思われる向きも多いかもしれない。が、決してそれだけではない。そのことを知ったのが、柳島康治さんだった。1990年くらいに3年ほど続いた、日立製作所の企業広告の仕事。社員にユニークな質問をぶつけ、その回答で構成するアンケート広告として知られているが、僕にとっての白眉は「国際化」をテーマにした回だ。世界中にある日立の社員は急速に進む国際化の只中で何を考え悩み、どう動いたかをリポートするのだが、見せ方がすごかった。たとえば日本時間では真夜中でも、地球の反対側では真昼間だから、現地の社員は何かしらの仕事をしている。それを。「ある日の日立の地球断面図」と称して、24人の様々な国の、国籍の社員のショートリポートを時間軸で見せるというものだ。個人的に印象に残っているのは、仕事の後に渋谷の日本語学校で日本語に通うと日本の日立で働く外国人社員。彼に会った事はないのだが。夕暮れの渋谷駅の人ごみを急ぐ姿が目に浮かぶ。これを考えたのがADでも構わないだろう。でも、僕の場合は柳島さんというコピーライターだった。「書く」ことではない、その瞬間を目の当たりにしたから、「キャッチフレーズを書くことは、コピーライターにとってもしかしたらいちばん簡単なことかもしれない。」という真意が身にしみるのだと思う。余談だが、この仕事は日経かどこかの編集部から本にしたいと乞われ、書籍化された。
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