出だしギライ
若い頃、なにか立派なことを喋ろうとすると出だしでつまづく、
という面倒な癖があって、プレゼンや打合せでは冷や汗でした。
単なるアガリ症や力み癖と言えばそれまでですが、
どうしても一言目がつんのめって、口が金縛りにあうのです。
とりわけ鬼門はその一言目のなかの“一音目”。
その一音目に潜む魔を克服しようと
自分流の“脱力法”をひそかに開発したことがありました。
1 まず頬の筋肉を緩めて、口は大きく開かない
2 ため息をつくような無気力さで一音目を発声する
3 ロウソクの炎を揺らさない息づかいができれば完璧
それでは、あなたもご一緒に。
なんの話をしてるんだか分からなくなってきましたが、
そんな脱力法を身につけてからは
「つまづくことを恐れて、発言を呑み込んでしまう」という悩みは消えていきました。
出だしって怖いんですよ。
これも昔の話ですが、“音痴な人の音痴な歌声”をラジオCMで使おうと
ちょっと意地悪な収録をしたことがありました。方法はカンタンで、
*音痴な歌い手さんを選ぶ
*ナイショで高・中・低の3段階の音程でカラオケを用意する
*テイクごとにカラオケの音程をこっそり変えて、歌い手をまどわせる
初球は真ん中、二球目は低め、三球目は高め、みたいな配球術で
歌い手さんの音程を狂わせ、その音痴力を最大限に引き出したわけです。
でも人って一音目を外すと思った以上に動揺をして、
その後の歌声の朗らかさが失われちゃうんですね。
いたずらとしては成功だけど、収録としてはチョット失敗だった、
なんて反省をしたことを憶えています。
やっぱり、出だしって怖いんだなあ。
出だしが億劫なタイプの、小澤裕介と言います。
一週間どうぞよろしくお願いします。
もっと正確に言うなら、“出だし”というよりは
“はじまる前”というやつが、すごく嫌でたまらないんですよね。
たしか映画『地獄の黙示録』のカーツ大佐は、
「恐怖から逃れるには、自分が恐怖そのものになるしかない」
ということで、狂気の王国支配者へと変貌していったわけですが。
自分の低レベルに当てはめるなら、すっごく気が重いことは、
さっさとその渦中に身を投じたほうがかえって気が楽になる。
誰か、そういう意味の格言とか知りませんか?
今日死ぬ者は、明日死なずに済む (シュークスピア)
・・・だんだん恥ずかしくなってきたので、もうやめます。
ともあれ、このコラムも、
出だしをなんとかすり抜けられて、ホッとしました。