リレーコラムについて

どこでどう間違えたのか

小澤裕介

すっかり鍋の季節ですよね。
このあいだ実家で鍋をつついていたら、とつぜん母が、
「ムーニーちゃん追加する?」と言い出しました。
「マロニーちゃん追加する?」と、本当はそう言いたかったに違いない。
あまりに球威のある間違いだったもので、
なんだか正してしまうのが勿体なくなってしまったわけです。

しかし、ちょっと待てよ・・・。

これが単なる“語尾がニーで終わる言葉”つながりの
ケアレスミスだったら心配はいらないけれど、
もしも“水分を吸うモノ”つながりという、
その特性を意識し過ぎてしまったがゆえの
コンセプチュアルな間違いだったとしたら。
万が一そうであったとしたならば、遅かれ早かれ、
「ウィスパーちゃん追加する?」
に飛び火しないとは言い切れない訳か。

グツグツグツとよく煮えた水たき鍋の、
透明なお出汁やら、肉や魚の灰汁やらをふんだんに吸って
ぶくぶくぶくぶくと膨張しつづける不思議な具材。
誰も箸をつけることができないまま、それは永遠に膨らみ続けていく・・・。
ゾワッと、風邪の引きはじめのような寒気が走りました。
やっぱり正すべきは、ちゃんと正さないとですね。

「どこで、どう間違えてしまったのか」。
これって、僕らの仕事でもしばしば
立ち止まって考え直さなくちゃならないコトです。

今年の春、家の引越しをした際に押入れを整理していたら、
新入コピーライターの頃の、ボツ案集がダンボール箱で出てきました。
なんで捨ててなかったんだろう、こんな小汚い紙屑どもを。
ひとつひとつ拾い上げて見直してみれば、
コレがじつに、間違い天国。なんとも、勘違い秘宝館。
自分への見せしめとして、今後も大切に保管することに決定しました!!

さすがに今ならば、お前はここで、こう間違っちゃったんだよ、
ここに立ち戻って、こういうふうに軌道修正してみたら?
などと当時の自分にアドバイスしてやれるのかもしれませんが。
・・・でも、同時に、それはやっぱできないかなという気もします。
なぜって、なんとなく想像できてしまうんです。

「言うこと聞いたら、つまんなくなっちゃったんですけど」
という真っすぐな反論が。

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