睾丸詐欺
31歳にもなると昼間にかかってくる母からの電話は妙に緊張する。
誰かになにかあったのではないかと。
いままでそんな知らせはないのだけれど、
あの時の電話は今でも夢であって欲しいと思う。
ケータイの向こうで母は泣いていた。
ああ、ついにこんな電話がきてしまったか。
が、第一声に耳を疑った。
「睾丸は大丈夫か?」
「・・・。なに言ってるの?」
「睾丸が破裂して病院にいるんじゃないのか?」
「睾丸は破裂してないし、病院にもいないよ。」
「えっ!?だって、さっき電話くれたでしょ?」
母の話によると、すすりなく息子から電話があったのだそうだ。
事情を聞くと病院にいるという内容であった。
今まで誰も処理の仕方を教えてくれなかったので、
睾丸が巨大に膨れあがり、ついには破裂し病院にいるというのだ。
息子は母の性教育に関する落ち度を叱責した後、
なぜか電話越しに喘ぐように要求したのだ。
母は心の準備をするため一度、電話を切った。
で、もう一度、息子に電話してきたのだ。
「信じるほうが難しいわ!」
「だって、声がそっくりだったし・・・」
さらに電話を切ったあとに、もう一度、母からの着信。
「正直に言って。本当に、違うの?」
「違うわ!!」
変態はいる。確実に。
変態のせいで、母からの着信は
さらに緊張感のある電話になったのであった。変態め!
ただ、この先の人生なにが起こるかわからない。
万が一、本当に睾丸が破裂してしまったら
母は信じてくれるだろうか。どうだろう。