負の鎖
自分の父親のことは、
基本はもちろん好きなんだけれども
好きになれないところも
たくさんあるぞ…と僕は思っています。
男にとって父親ってたいてい
そういうものなのかもしれません。
でも僕には父を徹底的に全面的に
尊敬できる、これからも決して
変わらないであろう理由がひとつあります。
それは父が祖父から受けてきた暴力を
その子ども(つまり僕です)に
ふるわなかったこと、です。
すごいと思う。かんたんそうで
なかなかできることではないと思う。
父親の口から直接聞いたことは
一度もありませんが、
父は戦争経験者である祖父の
唯一の息子として大切にされつつ
日常的に暴力をふるわれていました。
でも僕は父に殴られたり罵倒されたことがありません。
祖父に殴られたことはありますが。
上の世代にされたことを
下の世代にしてしまう。
これって人間の悲しい宿命だと思います。
暴力やいじめはその代表で、
親子でも職場でも部活でも政党でも軍隊でも
おそらくありとあらゆる場所で時代で
くりかえしくりかえしくりかえし
行われている負の連鎖です。
無意識を縛るから性質が悪い。
目に見えないから切りにくい。
しぶといしぶとい鎖です。
だけどこの鎖がちゃんと見えて
時間をかけて断ち切れる人も
たくさんではないけれどいるのです。
僕の父のように。
そんな人の息子であることを誇りに
負の鎖を断ち切る強い心を
今度は救命ロープのようにして、
いろいろなひとに結んでいくことが、
僕の使命のひとつなのかなと、
ときどき自分に言い聞かせないと。
僕もすぐに、気づくと負の鎖に
縛られてしまっていたりするのです。