リレーコラムについて

朗読詩

朝倉勇

こんにちは。朝倉勇です。
所属している詩のグループ「歴程」で、4月に朗読会がありました。
テーマは「風」。ぼくはこんな詩を読みました。

  ぼくと、風たち  

   1:高いところ

  空の高〜いところを
  大きな風が吹いており
  ちっちゃなぼくらは
  地上にうごめいている 
  中原中也も
  あの風を見上げていたのだ
  ボーヨー(茫洋) ボーヨー(茫洋) 
  と つぶやいて

   2:ヴィーナス

  ヴィーナスは
  地中海に生まれた
  こどもの天使たちは
  バラの花を撒き
  小さな口で風を起こして
  美しいひとを
  陸にさそっていた
   その中の一人が
   気づけば ぼくだった

   3:目

  風には 目がある
  と思う
  その目は だまって
  なにか とても大事なものを見ている
  と 思う
  トンボの背中に乗って
  きっと 本質とか 実相とか
  そういうものを
  見ているのではないだろうか

   4:似合うひと

  風の似合うひと
  は すてきだ
  髪なびき あるいは乱れ
  裾 揺れ あるいは捲れ
  風は ときおり 
  ふとももに触れていく
  そういう 風に ぼくたちは
  惹かれて生きてきたのだが・・・

   5:崩壊 その1

しきりに吹いてくる東北の風
三月十一日から吹いている
かつてなく悲しく かつてなく残酷な風だ
その風は この国のなにを責めているのか 
風は なにも言わない
魂に訊けと 問うているのだろうか
「風は 崩壊を美しくする」
という囁きが 聞えてきたりする 

   6:崩壊 その2

  まさか 地球に
  悪意があるとは思えないのだが
  怒りの波が引いて行った後に
  犬さえ うろうろ歩いている
  向かい風は 
  いつまであの地に吹き続くのだろう
  余震の数は 
  もう覚えきれなくなってしまった
  もういい もう分かった
  風よ きみはほんとうに
  「崩壊を美しく」できるのか 

   7:被災した風 

  砂ぼこりを引きずって風が舞っている
  もう どこにも行くあてがない 

  家と家の間にあった通り道もなくなった 
  その土地は方向を失ってしまった

  どこに行けばよいのかわからない
  どう吹けばいいのかわからない

  すると 風は風でさえなくなってしまう
  遠い山の麓の桜の花が目にしみる

  放心した風は
  しょんぼり 瓦礫の上に座り込んでしまった

   8:飢え

  北アフリカに吹き起こった風
  革命の風だ
  あの 乾いた風土を吹く熱い風が
  肌を刺し 心を刺し
  独裁権力の倒れる音を運んでくる
  風は飢えていたのだ
  ときめきに飢えていたのだ
  ブラボー !
  という 風の声を聞こう

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