リレーコラムについて

ゴルフが教えてくれること

野澤友宏

五年ほど前、ゴルフをはじめました。
もともと運動神経ゼロ。練習もせず、年に数回ラウンドするだけなので、上達するはずがありません。ゴルフ場に行くたび、自分の下手さにあきれるばかり。息抜きをするつもりが、逆にストレスをためて帰ってくることしばしばです。
でも、下手は下手なりに、ゴルフから学ぶこともすごく多い。

それは、たとえば、「自分の言うこと」をちゃんと聞くようにすること。

ボールをまっすぐ打とうと思っても、曲がってしまう。20メートル先にボールを落とそうと思っても、打ち損ねて1メートルくらいで止まってしまう。自分の思い通りに、体が言うことを聞かないことがたくさんあります。
それはそれで、仕方がない。技術がないんだから。

体が言うことを聞かないのは、ちょっと悔しいけれど、そんなには悔しくない。
すごく悔しくなるのは、自分で「自分の言うこと」を聞かなかった時。

ボールが曲がってしまって、林の中に入ってしまう。ボールとグリーンの間には二本の木が立っている。うまく木の間を抜ければ、次の一打でグリーンに乗り、曲げてしまったミスショットをカバーできるかも知れない。木のない方向に打ってとりあえずフェアウェーに戻せば、一打損してしまうけれど次の一打で確実にグリーンに乗せることができる。「さて、どうする?」自分の心に耳を澄ます。「当然ここは安全に…」と言い終わるのを待たずに、木の間をめがけてスタンスをとる。「ま、いいや、うまくいくかも知れないし…」。果たしてボールは木に当たり、林の奥深くに飛んでいく。

これは、もう、めちゃくちゃ悔しい。

20メートル先を狙ったのに、打ち損ねてしまう。ボールはちょろっと1メートルしか進んでいない。おまけに深いラフ(草)にはまっている。今手にしているクラブでは草の葉がからんでしまい、また打ち損こねる可能性がある。違うクラブを取りに100メートルくらい離れたところにあるカートまで戻るか。他のメンバーはとっくに先に進んでいる。「これ以上待たせていいものか?」自分の心に耳を澄ます。「今のクラブで打つには相当な技術がいるし、さっさと違うクラブを取りにいった方が…」という声を無視して、打つ準備に入る。「ま、いいや、うまくいくかも知れないし…」。当然クラブに草がからまり、ボールは草の根の中にずっぽりとメリ込む。

悔しさを通り過ぎ、がっかりを通り過ぎ、自己嫌悪にいたる。

ゴルフは、メンタルが大切なスポーツと言われます。つねに平常心を保つようにするとか、自分の実力以上のことを欲張ってはいけないとか、いろいろ言われています。だからといって、いつも冒険を避け安全策をとるべし!というアンパイな生き方を学んでいる訳ではないような気がします。ほんの稀にですが、わけもなく狭い木の間を狙っても大丈夫!と確信できる瞬間があります。そういういう時はそういう時で、必ずうまくいく。不思議とうまくいくんです。

僕にとってゴルフ場は、単純に「自分の言うことを聞く訓練」の場です。「ま、いいや」と思って「自分の言うこと」を無視することをなくす場。「自分の直感に素直に従うトレーニング」の場なのです。

仕事でもよくありますよね、「あ、こうした方がいいかな?」とちらっと頭をかすめながら、「ま、別にたいしたことないし、それをしなかったところで面倒くさいことにはならないだろう」と思って放置した結果、大きなモメごとに発展する時が…。

恋愛でもあります。仕事中に「あ、今電話した方がいいな」とか、一緒にご飯を食べている時「あ、今これを言ってあげたら喜ぶな」とか思いながらもうやむやにして、「私のことなんかどうでもいいんでしょ…」と思わぬ喧嘩が勃発したり、「どうせあなたは人の気持ちが全然わからない人なのよ」と思わぬ罵声を招いてしまうことが…。

「自分の言うこと」を聞くって、簡単なようで実はとても難しいこと。
すごく訓練がいることだと思うんです。

「自分の言うこと」を素直に聞いてあげていると、いつしか「耳」がよくなってくる。自分の中のほんのささやかな声まで聞こえるようになったりする。そのささやきが、いい「言葉」や「ひらめき」につながったりすることがある。

いいコピーやいいアイデアを生む人は、きっと、とても自分に素直な人なんだと思います。

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