アートが教えてくれること
二年ほど前から、アートをコレクションしています。
「桑久保徹」という若い現代アーティストの絵画を二点買いました。
『夫婦岩』という題の絵は、一見、海辺にある二つの大きな岩を描いた風景画ですが、よく見ると、それぞれの岩に蝶ネクタイとブーケがちょこちょこっと描かれてあったりする。ファンタジッックなのに、決して甘くはない。ものすごくチャーミングな絵なんです。
その絵に出会うまでも、アートは好きで美術館やギャラリーにはよく行っていました。いわゆる歴史的名画にしろ、現代アートにしろ、あくまでも個人的な感性で「いいか、悪いか」「好きか、嫌いか」で作品を観ていました。しかし、アートを買うようになると、そこに「欲しいか、欲しくないか」という新しい物差しがひとつ加わる。
その作品にお金を出していいものかどうか、真剣に観るようになる。
もちろん、買いたくても買えない歴史的名画や、圧倒的に高価すぎてはなから手がでないものもあります。それでも、「欲しい、欲しくない」の物差しをもって真剣勝負を挑むような気持ちで観ていると、作品と自分との間に新しい回路が生まれてくる。その作品の“真剣さ”が見えてくるような気がするのです。
『夫婦岩』も、ちょっとギャグのように聞こえるかもしれません。でも、あえて油絵の伝統を踏襲しているように装いながら、二次元的な絵画と現代的なインスタレーション(実際の空間を使う三次元的なアート)との間を揺れ動く作家の格闘がすごく見えてくる。真剣に「絵画とは何か?」を考えている軌跡が見えてくるんです。
お金がからむと、人は真剣になる。みたいな単純なことを言いたい訳ではありません。もちろん。
僕にとって、アートを買うという“体験”は、アートとの新しいつきあい方をもたらしてくれるきっかけになった。
自分の中に、新しい“物差し”ができた。
新しい物差しで計ってみれば、今まで見落としていたものが見えてきた。
今、世の中が、どんどん変わってきている。
その凄まじい変化の中で、広告は、どんな新しい“体験”を人々に促すことができるだろうか。コピーは、どんな新しい“物差し”をつくることができるだろうか。
『夫婦岩』を観るたびに、自分の仕事の真剣さを問われているような気がしてなりません。
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