青空
朝からおなかの調子が悪かった
高校2年生のある日。
なんとか授業を乗り切り、
いつもの3人組で帰宅の途についていたときのことです。
「っ!」
きました。奴です。強烈な便意です。
今日、幾度となく戦ってきたそれとは
比べものにならない破壊力をもっています。
あー、これはどうやったって家まではもたない。
「ごめん。おれ、ちょっとトイレ行きたいから
さき帰っといて。」
友達にそう言い残し、
ぼくは刺激を与えない程度の早歩きで
川沿いにあるスーパーを目指しました。
どちらかというと肌寒い時期でしたが、
若干の冷や汗をかいています。
心臓はバクンバクンいってます。
ようやくスーパーが見えてきました。
「あー、危ないとこだった」
…この一瞬の油断がまずかった。
奴は最後の力を総動員して、
ぼくの下半身に元気玉を放ってきたのです。
「カ、カカロットーっ!」です。
スーパーに一歩近づくたび、
一歩、また一歩と肛門に近づいてくるあれ。
行くも地獄、戻るも地獄。
・・・・・・・・・・・・・あー、ギブ! ギブギブっ!
手を伸ばせば届きそうな距離にまで来たスーパーをあきらめ、
ぼくはスーパー裏手にある草むらへすかさず移動。
ズボンをおろし、すべての緊張をときました。
あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
人どおりが少なかったことが不幸中の幸い。
いや、うんこ中の幸運というべきか。
ふと空を見上げると、
神様の視界からぼくを隠してくれるかのように、
空一面を雲が覆っていました。
ごめんなさい。なんかカッコつけて
初めての野グソ体験っぽく書いてきましたが、
わりとベテランです。
それなりのノウハウは習得しております。
そのへんの葉っぱを拾い、
慣れた手つきでササっと拭きとって、
最小限の汚れで切り抜けるためのビーバップ的ガニ股で
堂々と家路につきました。
事件が起きたのは、翌日。
途中まで一緒に帰ってた友達2人が
ニヤついた顔でぼくのところへやってきました。
「昨日、おまえトイレとか言ってたけど、女やろ?
女に会いに行ってたんやろ?」
はぁ?です。
なんでやねん。ふざけんな。って話です。
「違うわ。下痢やったから、
スーパーにうんこしにいったの」。
「ぜったいウソやわ。ぜったい女やわ」。
なんだこいつら。
だんだん腹がたってきました。
「お前らなぁ、おれがどんだけ昨日苦しんだかしらんやろ?
結局、間に合わんくて野グソしたんや。大変やったんや」。
「女とのケンカが大変やったんやろ?」
ぷっちーん。
堪忍袋の緒が切れました。
同時に、身の潔白(正確には身は汚れたのだが)を証明できる方法が
ひとつだけあることに気づきました。
「わかった。
じゃあ今日の帰り、おれのうんこ見に行こう。
おれが指定した場所にうんこがあったら
お前ら謝れ。いいか?」
「お、おぅ。わかった」。
恥とか後悔なんて感情はそこにはありません。
ただ、自分が間違いなく野グソをしたことを知ってほしい。
もはやプライドの問題でした。
そして下校時間。
3人が集まり、昨日のスーパーへ向かいます。
道中、会話はほぼありません。
被告と原告がバッタリ会い、気まずいけど行き先は同じ裁判所だし、
じゃ、一緒に行きます?みたいな。
そんな感じです。
と、ヘタクソな例えを言ってる間に、
スーパーが見えてきました。
そのとき、昨日見た風景と何かが違うことに気づきました。
でも、それが何かはまだわかりません。
スーパーに近づきます。
やはり何かが違います。
さらに近づきます。
「まさか…」
徐々にその正体に気づいてきました。
でも、信じることができない自分がいます。
2人も何らかの違和感に気づいた様子です。
そして、事件現場に到着しました。
「ここ。ここで昨日、した」。
僕が指差したところを見つめながら、
2人は無言でその場に立ち尽くしていました。
およそ、くるぶしぐらいまでの草が生い茂っている一帯。
その中で、ぼくが放出した場所だけ
小3の身長ぐらい草が伸びていたのです。
それは、天にまで昇らんとする勇ましさと誇りに満ちていました。
「ごめん。悪かった」。
2人はぼくに頭を下げました。
「わかってくれたら、いいよ」。
ぼくは2人を許しました。
空を見上げると、
雲ひとつないきれいな青が広がっていました。
余談ですが、そのうち1人は現在、
某トイレットペーパーメーカーに勤めています。
くだらない話してたら腹がくだってきたので
今日はこのへんで。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
悩むとすぐ「下」に頼る悪いクセが
存分に発揮されたコラムでしたが、
とりあえず乗り切れたことに満足しています。
読んでくださった人がいるとしたら、
ぜひ、いつか一緒に野グソでも。
さて、来週からは、
2010年にレッドバロン様の広告で新人賞をされた
リクルートメディアコミュニケーショズの
朝本康嵩さんのコラムが始まります。
背がスラっと高く、ちょー男前。
でも、すごく謙虚な方です。
最近は、女子大に行ってかわいい子に声をかける、
というお仕事をされてるようです。
ぼくもその仕事にご同行させていただこうと思うので
今回のリレーコラムはこのへんで。
◎万が一、ご意見・ご感想があれば。
→morita@919.jp
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